第23話
ブルーカラーの娘を転がした平和贈呈局員の男は、彼女の血汐で固まった頭部をいたわるように、それでも、ものを扱う態度で体をひょいと持ち上げて肩に乗せた。
「先に行く後の処理はお前に任せる」
「わかった」
エクスプロイターを抜いている者とヨナを横切って、彼等は狭い部屋の出口を目指した。先頭を行く者がいつの間にか通路を塞ぐように傾いた部屋のドアを直そうとして手を掛けた。
ヨナに向けられている銃口が少し持ち上がってまるで持ち主と一体となったかのような不思議な気配を纏った。彼等は、思惑通りに事が進んでさぞ満足だろう。しかしながら彼等はその事にはきっと気が付かない。彼等には毎回同じ成功という結果以外はありえないのだ。
彼等は無意識に明日もまた同じように成功すると考えているだろう。それこそが彼らがもたらす平和であって何よりも尊く素晴らしい物なのだ。しかし。
ヨナは遺言、または、呪いのつもりで言葉を発した。
「君の名前はなんという?」
平和贈呈局の男は引き金に指をかけてゆっくりと答える。低く不気味な声色だった。
「名前?さあ、しらないね」
「知りたいとは思わないのか?」
「思わないね」
「そうか」
「そうだとも。・・・さようなら」
それから間もなくエクスプロイターの閃光が3度も瞬いて、狭い部屋中に血の匂いと鮮烈な色をぶちまけた。
奇妙な事にその光景をヨナは見ていたのだ。
彼はまだ生きていた。そして。
「・・・・こいつ!まだ生きていたのか!」
ちょうど中心にいた仲間の上半身が急に吹き飛んでしまったので、残された平和贈呈局の2名はすぐに手にしているエクスプロイターを新たな脅威へと向けた。
ああ。彼等はまことに隙だらけだ。
扉を弄んでいたものと、予め、武器を手にしていた者とでは当然勝負になどならない。とても距離が近かったのでヨナは身体を回して、右足の踵でエクスプロイター、顎、鼻と口の間、鼻、額と順番に触れて扉の男を睨み付けた。
必要以上に派手な動きは、驚異の対象をこっそりとすり替えるのに十分な効果を発揮した。加えて、ヨナはエクスプロイターを構えた男に向かって飛び掛かった。
それから、2度銃声が響いたが新たに死んだ者は一人もいなかった。
下の階では彼らの仲間が駆け足でこちらへ向かって来ている音が地響きのように聞こえていた。
血と、埃と、灰にまみれたブルーカラーの娘をヨナはそっと抱き起した。
「大丈夫なのか?」
「・・・痛い」
ブルーカラーの娘は苦しそうにそう言って、ブルブルと震えながら右手を上げた。
すると指が3本ほど無い。
「大丈夫だこれくらいなら血を止めよう」
ヨナは落ちているエクスプロイターを拾い上げて、空いている場所に数発撃ちこんだ。そして、加熱された銃口をブルーカラーの娘の方へとゆっくりと向けた。
「いや・・・いや・・・っ痛いの嫌!」
ああ、生きているのだ。
ジュウウウウウウウウっ!!!!
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