第14話
この街は病んでいる。
今朝の事だ。生活に行き詰ったであろうブルーカラーの一人がこの食料分配局の屋上までよじ登り、何かを叫んだかと思えば施設の前に集結していたブルーカラー達の群れめがけて飛び降りた。そして、巻き込まれた数名と共に死亡した。
彼等は未だに放置されている。
活動を停止した体は物と同じだ。
そして、それはこの朝食と同じだ。と、ヨナは思った。
昨日の昼食に加えて、今日の朝食も分けてくれと哀願する強欲な男をヨナは無視した。自分は同じなのだ。他の局員たちと同じなのだ。彼等は誰一人、朝食を残さない。
彼は食事の後、呆れる程うんざりとした大勢の気配にほかの職員たちと共に溶け込んでいった。シャッターの向こう側はどんよりと暗く、時折叫び声が聞こえるばかりであった。8時を知らせる鐘の音が街中に鳴り響き、食料分配局の窓口には数えきれないブルーカラー達が群がった。
あるものは男、またある者は女だった。片方の靴を失った者、小刻みに痙攣する者、怠惰の代償に片目をくりぬかれた者、ブルーマジックの禁断症状が現れている者、ヨナを手製の
どれも、どこかで一度は目にしたような気がする。そんなありふれた救いようのない落伍者たちだ。
「次の方」
次の者はもうとうの昔に花盛りを過ぎたブルーカラーであった。
ブルーカラーの女は暗く厚手のローブの中で幾分か申し訳なさそうに身じろぎした後、ヨナの窓口の前の椅子へと腰を下ろした。
「使用済みの配給カードを返却してください」
「・・・ええ」
「本日は配給を希望されますか?」
「ええ、ぜひお願いしたいわ」
「何か差し出せる貴金属・証券・または権利書があればご提出ください」
ヨナは返却された配給カードを管理機械へと飲み込ませ、台帳と出力されたレシートを照合し、必要事項を記入した。
そんな事には目もくれず、ブルーカラーの女は
「いつも言っているでしょ!・・・うちにはそんなもの何一つないわよ・・・!おねがいよ・・・!もう限界・・・なの・・・え?」
ヨナは発行された配給カードをブルーカラーの女の前に差し出して長蛇の列を形成している人混みの先頭の者を呼んだ
「次の方」
ブルーカラーの女は差し出されたカードとヨナの冷え切った表情を交互に見てから、所在なく放り出されたままの赤い配給カードを懐の奥深くにしまい込み、暗いローブの中で小さく頭を下げた。
「・・・ありがとう」
「次の方」
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