第12話

局員たちに配られる一週間時計が何周もした頃、ヨナが勤務する食料分配局でも無意識のうちに記憶にへばりついてしまった面々の何割かが綺麗に消え去り、それらはサイコロを転がしたかのように容易く、別の者へと変化していた。

消え去った者たちがどうなってしまったのかは、ヨナも含めてこの街の誰も知らない。


入れ替わった連中は当然、中身も違うに決まっているであろう。

その確信がヨナにはあった。


「よっ」


数日前から昼食時間が始まると決まって声をかけて来るこの男。


「おいおい、無視は無いだろ?同じ局員同士仲良くしてくれよ頼むよ」


大きな鉤鼻に色白の肌、鋭く垂れた目、前頭部の一部が孤立するように頭髪が抜けたおちた頭、気色悪く脂で光る頭皮、馴れ馴れしく触れて来ようとする分厚い手。

ヨナは男を睨み付けて肩に伸びた指を予めプログラムされているかのような滑らかな動きで払った。


「よせ」


「おお。こええ・・・こええ」


うすら笑いを浮かべた男は、わざわざヨナと対面するように全て一方向を向いて固定されている椅子に無理やり腰かけ、配膳プレートの焼きたての肉を指でつまみ上げて食った。


「ぅん・・・ぅん・・・最高だ。なぁ!」


他の大勢の局員たちの中でこの男はただ一人言葉を発している、椅子もうまく扱うことが出来ない、怒鳴り声にも似た大きな奇声をあげる。

入り口の近くで立っている平和贈呈局員の二人がヨナたちの方を睨み付け、おもむろに制服の影に手を差し込んでいるのが見えた。


この男は危険だ。きっとすぐに消えてしまうだろう。


ヨナは配膳プレートの上の蒸した肉、練り上げてから動物性の油で揚げた穀物を順番にひとつずつ口に運んだ。葬式のように穏やかな気持ちだった。

男は自らの行いに気が付いて、平和贈呈局員たちに向けて両手を上げた。

男の手にしたフォークが薄暗い空間で煌めき、二人の平和贈呈局員は何かもの言いたげであったが、少し前と全く同じ状態になった。


「なぁ、おい」

「なんだ」


男はプレートに残った焼きたての小さな肉の欠片をつまんで口に放り込むと卑しくも指をしゃぶった。


「ああ・・・あんたいつも残すだろ?俺にくれよ」


この男の提案、断ってしまうのは簡単だ。しかし、全てにおいてこの男は信用できない。


ヨナは何食わぬ顔で食事を続け、男をしばらく無視していた。

そして、早い者から先に銀色の椅子を離れてこの空間から去りだすと、その時に発生する僅かな騒音に隠れて答えた。


「構わないが、監視局が見ている」

「平気さ」


男は細い目を満足げにもっと細めて、下唇を持ち上げて言った。


「なら、俺がトレーを返却した後、少ししたら好きなようにすると良い」

「話が分かるじゃないか」

「君のことは何も知らない」

「俺もそうだとも


兄弟?


ヨナはいつもよりもずっと乱暴に配膳プレートを返却装置の最後尾に置いた。

下の階では大勢のブルーカラー達がひしめき合っている気配がこの場所からでも手に取る様にわかる。

自分の思い通りになり、あの男はさぞ気分が良い事であろう。


あの男の全てが

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