第7話
薄暗く、陰鬱なこの街の食料分配局の前では今日もまた
本来は道路としての役割を果たすはずのスペースは、大勢のブルーカラー達によりその機能を完全に麻痺させられていた。
ヨナが車を止めてある向かいの建物まで向かう途中、偶然にも使命を全うした平和贈呈局員たちが人混みを切り裂く様にこちらにやってくるのが見えた。
ヨナは連行されている人物がブルーカラーで無い事をすぐに直感した。
「道を開けなさい!」
屈強な平和贈呈局員たちに連れられていたのは、昨日のあの男であった。
男は、両脇の平和贈呈局員の肩にそれぞれぶら下がる様にがっくりと頭を下げて、それでいて、その口元はわずかに綻んでいるようであった。
「どきなさい!道を開けて!この者は危険な妄想犯罪者です!近づかないで!」
平和贈呈局員たちのただならぬ態度に解散途中であったブルーカラー達は素直に自分たちの存在を元あるべき場所へと向けはじめた。
『
あの男は、存外愚かだったようだ。
ヨナは、丁度人だかりが消えうせた滑らかな道をゆっくりと進んだ。
この滑らかな建築物がどのように造られたのかを、ヨナは知らない。
正面から近づく足音は複雑に乱れていて、それは間もなく自分のすぐ横を通り過ぎていった。
横目で確認するまでもない、間違いなく昨日のあの男だった。
「待ってください」
何の前触れも無く、誰かがそう声を上げた。
街の機能が半ば停止し、人影が薄くなり始めたその場所に異様なほどに良く響く、低く、そして、不気味な声だった。
要求が、ありふれていて、落ち着いたものだったからなのか、平和贈呈局員たちは乱れた足音を止めた。
ヨナもまた、可能性の一つを考慮して次の一歩を踏み出すことをしなかった。
うなだれていた男が顔を上げて振り返りヨナを見た。
「昨晩はどうでしたか?」
平和贈呈局員たちの鋭い視線のいくらかがヨナに注がれ、その音を聞いたかのようにヨナも半身振り返って男を見た。
屈強な体をしなびさせて坊刃ベストを着たままで制服の上着と帽子だけを暴かれた男の頭髪は少しだけ乱れて、顔は衰弱している。
「昨晩はどうでしたか?」
まったく同じ不気味な質問に対してヨナは
「あなたの事は存じ上げません。もちろん、あなた達の事も」
とだけ答えた。
それを聞くと男は、再び口元をほころばせた。
「ああ、そうでしたか。それは失礼しました」
「では」
男が再びうなだれるのと殆ど同時に、帽子のつばの下で眼光を鋭くしたまま平和贈呈局員たちが再び歩き出した。
その足並みは不自然な程に誇らしく揃っていた。
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