第6話
「優しいんだ」
「彼らがここを立ち去ったら。出ていくと良い」
「ずっとここに居ちゃだめなの?」
「監視局が見ている」
「今も?」
「そうだ」
全ての局員は、他人と同じ住居で暮らす事が禁止されている。
これは、それぞれの局員しか知り得ないこの街の保安に関する事項や、秘密を守るためであった。
例えば、ヨナをはじめとする食料分配局員たち共通の秘密の中に。
毎日、配給される量よりもずっと多くの食料が管理上の都合により廃棄されている。というものがある。
先程、目の当たりにした平和贈呈局員たちの行いもそうだ。
そして、常にすべてを監視しているという監視局の気まぐれさもまた多くの秘密のうちの一つであった。小さな秘密の重大さに気が付く賢明な者だけが選別され、
「みんな、死んじゃった」
「ほかの仲間の元へ行くと良い」
「決まりがあるの、しばらくみんなのところへは戻れない」
「なら、食料分配局へ行くと良い」
「もう眠いわ」
「なら、眠ると良い」
「おやすみ」
「おやすみ」
次の日、あのブルーカラーの姿は消え、部屋はただ静寂に包まれていた。
ヨナはクローゼットに入れておいた衣服を透明な膜から取り出し身に着けて、それから上着を着た。
部屋から出ると、平和贈呈局の局員たちは勿論の事、弾けたブルーカラー達も、壁や床や扉や階段の手すりにべったりと付着した鮮烈な赤もまるですべてが幻であったかのように消え失せていた。
「いつも助かるよ、少ないし味も最低だけど・・・食い繋ぐのにはちょうどいい。こっちは何もしなくたって一日で60トークンも支払わないといけないんだ・・・・いや、正確には57トークンか・・・」
脂と小さなゴミで固められた汚らしいひげを蓄えた男は、窓口から差し出された灰色の配給カードを手前に引き寄せると萎びた様子でそう言った。
トークンと言うのは、一般的に流通している通貨の10,000分の1の価値を持っているほとんど彼等専用の通貨でありほぼ全てが偽造された偽物とも言われているほどの粗悪な通貨だ。
「日常生活のご相談でしたら統合生活管理局にご相談ください。こちらの窓口では対応しかねます。次の方」
「あんたらは座っているだけで、とても健康的とは言えないな。ブルーカラーはいいよ」
萎びた男はそう言い残して、彼とすれ違う様に次の者が使用済みの配給カードを返却し、その人物もまた口に出したところで改善されるはずもない文句を口にした。
そうしている間に7時を告げる鐘が鳴り、ヨナは帰り支度を整え帰路についた。
ふと、時計を見ると時計の短針は115時をさしていた。
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