第5話
ヨナが自室へと帰宅すると、備え付けられたダストクリーナーが唸りを上げて起動した。
渦巻く乱気流の中でヨナは、分厚い扉の向こう側が心なしか騒々しいような気がしたが彼はいつもの調子を崩さなかった。
彼は上着を掛けて何をするでもなく椅子に座り、それからすぐにシャワーを浴びた。
体にまとわりついた水が全て吹き飛ばされるよりもずっと前に、クローゼットに入れた衣服のクリーニングが終了し透明な膜で包まれた状態で排出された。
いつものように蒸し暑い部屋だった。今夜もまた眠ることが出来ないかもしれない。
それは彼にとって、不安に近い確かな安心であった。
・・・こんこん。
・・・こんこん。
その時、何者かが部屋の扉を叩いた。
硬く、頑丈に閉ざされた部屋には必要以上にその音が良く響いた。
先程の平和贈呈局の男か?
ヨナは上着のポケットの中の明日捨てようと考えていた青い合成飼料をこっそりと左手に忍ばせてすぐに扉のドアスコープを覗き込んだ。
すると、通路の奥の方の部屋で今まさに部屋の扉が破られたところであった。
平和贈呈局の屈強な男たちが部屋の中へと侵入するよりも前に一人の男が飛び出してきて手に持った刃物を振り回した。
ヨナはその様子を漠然と見ていた。
・・・こんこん。
・・・こんこん。
男の上半身がエクスプロイターで弾けると同時に扉のすぐ向こうでそんな音がした。
目の位置を上げて下方を見るとそこに小さな人影があった。
件の部屋からは続々と人が飛び出してきて、あっという間に赤い液体へと変化していった。
・・・こん・・・こん。
・・・こん。
ヨナは、ドアスコープの外の汚らしい厚手のローブからかすかに見える口元の歯に、何か普通ではない気配を見た。
そして、ローブの頭越しに、屈強な湿った男がこちらに向かって来ているのが見えた。
偶然にもそれは、先程の平和贈呈局の男だった。
男の右手にはエクスプロイターが握られていて、鈍い灰色の光を放っていた。
男の手がローブが掛けられた肩に伸びる。
「・・・」
「なにか?」
「・・・いいえ。せいぜいお楽しみください」
「どうも」
この巨大な街の中で、ちっぽけなアパートの一室の存在が彼等に観測されたのは、いたるところに目を持つ監視局の功績であることに疑いの余地はなかった。
毎日、自動で取り換えられる新品の寝具の中で、懸念していたよりもこのブルーカラーは清潔だ。と、ヨナは思った。
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