第2話
いつもと変わらない日常の幕が上がる。
『勝負ありっ!勝者!ノール木立ち地区スリオ卿!』
ヨナは相手の背中まで貫通してしまった決闘用の刺剣を真っ直ぐ引き抜くと、この
急いで治療をすればあの者は助かるかもしれない。
割れんばかりの歓声と怒号の中、ヨナの脳裏をよぎったのはそんな事であった。
評議場の両翼に備え付けられたボックス席の人々が順番に退出して行き、使いの者のみが残されたのを見計らうと、今回の評議の発起人であるスリオ卿の代理の者のイントロデューサーである肥えた男が、身体にでっぷりと付いた肉を左右に揺らして視界を塞ぐようにヨナの前に立った。
顔の肉がはみ出している鉄の仮面の内側で苦しそうに呼吸を乱しながら男は僅かに体を屈ませ、付き人の女が取り出した綺麗な布切れで仮面と顔の隙間を拭かせた。
「ご苦労ご苦労。500の掛け金にしてはずいぶんと弱い相手だったな。全く、こんな事の為にわざわざ呼び出されるこちらの身にもなってみろ・・・ああ、次は170時間後だな?」
「ええ」
「次の相手の得物は薄気味悪い3本のかぎ爪だそうだ念のために言っておくが、お前の車も部屋もすべてスリオ卿の所有物だという事を忘れるなよ?無論、私名義で貸してある口座もだ。高貴さとそれに伴う責任に感謝するように」
「わかっています」
「よろしい、さぁとっとと正規労働にもどれ」
「はい」
人々が築き上げたこの社会の為に労働をして、金を稼ぎ、そして生活をする。
ヨナもまたその他大勢の人々と同じであった。
この巨大な街の食料分配局で働くヨナは、今日もまた地上4階の位置にある天井の低い食堂で管理飼育された小麦や家畜の肉で作られた朝食を取り、彼の持ち場である食料分配局の窓口へと向かった。
閉じられた薄暗いシャッターの向こうでは姿は見えずとも大勢の人々の気配でひしめき合っている。
8時を告げる鐘が鳴り、窓口が、食料分配局が、そして、街全体が地鳴りのような慌ただしさに包まれた。
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