Twenty-fifth shot 生物実験室の異変
南校舎二階にある生物実験室では、顧問の菊地と部員たちが上を下への大騒ぎになっていた。
長机の上には、ケージから出されてぐったりとなっているウサギ、カメ、ヘビ、ヤモリなどが並べられ、水槽から引き上げられたウーパールーパーや大小様々な魚の死体は種類ごとにバケツへ入れられていた。
部員の多くは、ケージの清掃、水槽の水の入れ替え、水槽内に入れてある砂の煮沸作業にあたり、残りの上級生組と菊地が死体を一匹一匹解剖して念入りにチェックしている。
黒波が入ってくるのに気付いた上級生の一人が、作業を止めて近付いてきた。
「黒波、えらいことになった」
「部長、一体何があったんですか?」
「原因は全くわからん。病気なのか、感染症なのか。飼育してた生き物がこんな一度に大量死するなんて……お前が担当してたネザーランド・ドワーフも」
部長の視線の先には、机の上に安置された二体のウサギがある。
「ダンゴ!アンコ!」
駆け寄った黒波はくちびるをかみ締め、もう動かないウサギの体を愛おしそうになでる。
「チカラ……部長、チカラは?」
「ああ、子どもの方か。それが奇跡的に無事で、体力も落ちていない。生き残った生物の中で、衰弱してないのはあいつだけだ。一応古いケージからは出して、まだ使ってなかった小さいケージに移し替えてる」
黒波は部長が指差したケージに向かい、中で牧草を頬張っている子ウサギをじっと見つめた。
ん?
見入る表情が、安堵してるというより、どことなく険しいような……。自分の育てている子ウサギが奇しくも生き延びたというのに、黒波は嬉しくないのだろうか。
「おい、君は二年の大鳶だったな?」
菊地が、目ざとく声をかけてきた。
「はい、そうですが」
「見ての通りで、てんてこ舞いなんだ。悪さをしたのが病原菌か寄生虫か特定できん現状では、被害を拡大させないために、ケージも水槽もこの部屋もすぐに清掃しなければならん。部員じゃないのに悪いが、あの大きなケージを中庭で洗うの、手伝ってやってくれないか?」
「……はい、わかりました」
今日は塾もないし、午後からの予定もない。黒波からは側にいてほしいとも言われているし、運動がてら協力することにした。
それはそうと、黒波はずっと子ウサギを凝視している、というか俺にはにらみつけているように見える……。彼女の姿に微かな違和感を覚えつつ、俺は菊地の指示でタワシを取り、大型ケージの掃除を始めたんだ。
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