Twenty-first shot 記憶を消されたソラ

「黒波!」


 俺は彼女の横に屈み、肩を揺すった。


「黒波!……黒波さん、しっかり!」

「お、大鳶くん?……」


 うっすらとまぶたを開いた黒波が、微かに顔を動かす。


「うん、俺だよ!大鳶だよ!」

「ここは……どこ?……外にいるの?」

「塾の側を流れてる川の河川敷だよ。岡本に連れてこられたんじゃないの?覚えてない?」


 俺は、黒波の背中に手を当て、上半身を起こしてやる。


「岡本先生?……あたし、塾で岡本先生に居残るよう言われて……」

「そう、それは教室で俺も見てた。それからどうしたの?」

「一緒に職員室へ行った……ような、行かなかったような……それからどうしたのか、全然思い出せない……」


 俺が後ろに立っているルナを見ると、彼女は意味ありげにうなずいた。

 キュラス星人にオーラを吸われた者は、その前後の記憶を消される……それだ!

 黒波は、ルナたちの姿に気付き、探るような目で見る。


「その人たち、学校で見かけたような……」

「ああ、三人とも俺のクラスメートで、ルナ、ミラ、マル。えっと……塾から帰ろうとしたら、そこの橋でばったり会ってさ」


 俺が即興で取り繕うと、ルナたちも慌てて首を縦に振り、同意を示す。


「じゃあ、あたしはどうしてこんな所に?岡本先生は?」

「あの……それが……橋の上で彼女たちと立ち話してると、急に河川敷で女の人の声がして、みんなで確かめに来たら……君がここに。岡本はどこにもいなかった」


 キュラス星人については論外だけど、岡本にここまで連れられ、しかも襲われたなんてことまで話せば、黒波は大きなショックを受けるだろうし、警察を呼んでの大騒ぎになるかもしれない。ここはこの程度にごまかして、当たり障りのない状況に留めておくのが得策だろう。


「あたし、どうしちゃったんだろう……こんな経験、初めてだわ」

「けど、見たところ、どこもケガしてなさそうだし。立てる?」

「え、ええ……」


 俺は彼女のスクールバッグを持ち、肩をつかまらせて支えてやる。

 俺からバッグを受け取った黒波は、思ったより足元がしっかりしていた。


「送るよ。黒波さんの家、どの辺なの?」

「ううん。そこまでしてもらっちゃ悪いわ。それに、あたしの家、ここからすごく近いし」

「だけど、河川敷で倒れたりしてたんだから、このまま一人で帰らせたら、こっちが心配でたまんないよ」


 そんな言い方をした俺を、ルナがピクリと反応してチラ見する。


「まあまあそないなこと言わんと〜。せっかくやし、みんなで帰ろうな〜」

「遠慮なんかすることないんだぞ。みんなで一緒にわいわい帰る方が、ずっと楽しいじゃないか。さあ、行こうぜ」


 マルとミラが、黒波を両脇から抱えるようにして強引に進ませる。


 俺とルナもその後に続いたんだけど、ルナの横顔が微妙なふくれっ面をしてるように見える。え、何で?

 微妙な空気感を漂わせつつ、俺たちは河川敷から離れた。

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