Nineteenth shot テレポーテーション!?

「やめなさーーーーーーーーーーーい!」


 聞き慣れたルナの声が響き、横合いから飛び込んできた彼女のジャンプキックがキュラス星人の顔面にさく裂した。


「グアッ!」


 この奇襲はある程度効いたらしく、キュラス星人は右手を離し、よろめきつつ数歩後退する。

 続いて現れたミラがまるでカンフー映画のヒロインみたいな身のこなしで、拳を相手の胸へ立て続けに打ち込む。と同時に、ルナは舞うような回し蹴りを浴びせた。

 普通の人間なら、きっとたちまちノックアウトされるほどのダブル攻撃なのに、立ち直ったキュラス星人は両腕で巧みに受け止める。もしも彼女らが戦闘モードで戦っていれば、もっと大きなダメージを与えられるはずなのに……。


「ルナちゃん!ミラちゃん!二人とも、今すぐ脇に離れて!」


 いつの間にか俺の隣に来ていたマルが、大声で呼び掛ける。

 マルの声を聞いたルナとミラは、すかさず左右に飛び退く。


 数歩前に出たマルは、手に持っていたいくつかの白い紙包みを、キュラス星人に向かって投げつけた。紙包みは、相手の顔に当たると、破れて白っぽい粉が降りかかる。

 途端に、キュラス星人は両眼を手で押さえ、狂ったように身もだえした。


「あの紙包みは?」

「目つぶしやがな。日本国で数百年前に存在したっちゅう『忍者』ていう諜報・ゲリラ集団が使うてた投てき武器や。石灰と胡椒と山椒の粉を混ぜたもんやさかい、さすがのキュラス星人にもよう効いとるわ〜〜」


 マルが満足そうにウンウンする。


「そんな物どうやって作ったの?」

「石灰は学校の体育倉庫にあった白線を引くためのラインパウダー、胡椒と山椒は食堂。どれも、ちょこっと拝借してきたんや。ほんまやったらそれをニワトリの卵の殻に詰めて投げるんやけど、あらかじめ卵に小さな穴を開けて、黄身と白身を吸い出して、一日乾燥させなあかんから、えろう時間がかかるやろ?それで卵の殻の代わりに、ティッシュペーパーを使うたんえ」


 マルは、まだ一個残っていた目つぶしをつまみ上げ、ドヤ顔で見せる。

 ほどなく、ルナとミラが駆け寄ってきた。


「貴賀さん、無事なの?」


 ルナが心配そうに、首をさする俺の顔を覗き込む。


「うん、まだちょっとヒリヒリするけど、大したことない」


 そう聞いて、ルナは安どのため息をついた。

 目つぶしの効果が薄れてきたのか、苦しみもがいていたキュラス星人が、落ち着きを取り戻しつつある。

 モタモタしていられない。もう気持ちはすっかり固まっていた。


 ソウルイーターっていうのは、人を害する者、平和を乱す者!

 それなら、彼女たちは決してソウルイーターなんかじゃないんだ!


 俺は、ルナ、ミラ、マルの一人一人に、真剣な眼差しを向けた。


「みんな……この街を、そしてこの街の人を守り、助けてくれるのなら、そして君たちの役に立てるのなら……俺のオーラを使ってほしい!」

「貴賀さん……ホントにいいの?」


 念を押すルナに、俺ははっきりとアゴを引く。


「うわ〜〜〜、改めて見たら、貴賀はんのオーラ、ごっつい量が放出されてるで〜」

「確かに。となれば、あたいらも覚悟を決めなきゃな」


 マルとミラは顔を見合わせた後、ルナに向き、無言でトップバッター役を促した。

 ルナはコクリと承伏し、ゆっくりと俺に近付いてくる。


「貴賀さん……よろしくお願いします」

「は、はい……」


 真正面にいるルナが、さらに前へと踏み出した。

 つま先を立てて背を伸ばしたルナは目を閉じ、グッと顔を近付けてくる。

 柔らかなくちびるが、俺のくちびるに触れる。甘美にして胸ときめく瞬間……激しい電流が全身を貫いた。


 ピシュゥーーーーン!ピシュシュシュシュシュシューーーーーーーン!


 この電撃ショックだけは、きっと何回経験しても慣れないんだろう。

 息つく間もなく、マルが俺の前に立つ。


「さあ、貴賀はん、あての胸を、早う!」


 突き出された爆乳は、衣服をまとっているとはいえ相当な迫力で、自分から触るのがどうにもためらわれる。


「もう!意気地なしやなぁ。こっちかて恥ずかしいんやからね!」


 と言うなり、顔を赤らめているマルは俺の両手を取り、自分の胸に押し当てた。


「アアン!」


 マルの甘い声が漏れ、これまた極楽浄土の感触!そして電流!


 ピシュゥーーーーン!ピシュシュシュシュシュシューーーーーーーン!


「次はあたいだ!早くしろ!」


 今度はミラが、ギュッと目をつぶり、へっぴり腰の体勢でお尻を突き出す。

 体はフラフラなのに、アドレナリンは全開してるような感覚だ。ここまでくれば、もう恥も外聞も理性も思考もない。俺は勢いのまま、ミラの美尻を両手でぐいとつかんだ。


 「きゃぁん!」とミラの口から甲高い喘ぎ声が絞り出される。


 ピシュゥーーーーン!ピシュシュシュシュシュシューーーーーーーン!


 足がもつれ、黒波の横にへなへなと座りこんだ俺の前面で、戦闘コスチュームの三人がキュラス星人に相対していた。

 ルナはプラズマソードを抜いて、相手に突っ込んでいく。

 まだ完全には立ち直っていないのか、ルナの光刃が急速に迫ってくるというのに、キュラス星人はその場から動こうとしない。


 上段から打ち込まれた光刃が、脳天を直撃する寸前……相手の体が突然消えた。

 光刃が空を切る。


 ルナだけでなく、数メートル隔ててプラズマガンを構えるミラも、さらに離れた場所にいるマルと俺も、一瞬何が起こったのか理解できなかった。


 すると、辺りをキョロキョロと見回すルナの背後に、キュラス星人が出し抜けに出現した。

 俺たちが注意を呼びかけるよりも早く、鋭い手刀がルナの右腕を強打し。プラズマソードを叩き落とす。

 ソードを取ろうとしゃがんだルナに、キュラス星人はさらなる手刀打ちを加えようとする。

 ミラによるプラズマガンの連射がそれを妨げたが、相手はまたもや姿を消し、今度はミラのすぐ隣に現れてかぎ爪で襲いかかる。

 ミラは直ちに銃口を相手に向けるが、接近されすぎており、かぎ爪の一撃でガンを打ち落とされてしまった。

 激しいかぎ爪攻撃を、ミラは素早い後方回転でかわす。


 これは厄介な敵だ。ルナとミラは相手に振り回されている。気が気でなく、俺はすがるようにマルを見た。


「今度の相手は、今までと違う戦い方をしてるよ」

「大抵のキュラス星人はかぎ爪と高密度エネルギー弾で攻撃してくるんやけど、あいつは高密度エネルギー弾の代わりにテレポーテーションを使うとる」

「テレポーテーション?」

「瞬時に移動できる超能力や。これはちょっと面倒やな〜。こっちも防備を整えとかんと」


 メリケンサック状の器具を右手のこぶしに装着したマルは、黒波が倒れている場所を真ん中にして、前面にプラズマシールドを張る。


 一方、ミラはプラズマブーメランを取り出し、短剣を振るうような所作でかぎ爪を防ぎつつ、時には一歩踏み出して横に薙ぎ、攻勢のタイミングを見計らっている。

 ここに、プラズマソードを拾ったルナが、斬り込んだ。

 二人からの攻撃を同時に受け、今度はキュラス星人が守勢に回る。


 俺たちが見守る場所から、十数メートル先で激闘が繰り広げられていた。

 敵の動きが鈍ってきたのを見計らい、ルナとミラは左右から足並みを揃えて同時打ちかかる……と、またもや相手は姿を消した。


 不意打ちを警戒してしきりに目配りするルナとミラ。そんな彼女らの間を割って奴は現れ出ると、両腕を旋回させて二人の頭部を強く打ち付けた。奇襲を受けて転倒し、痛そうに頭を押さえるルナとミラのカラータイマーが青から赤に変わり、点滅を始めた。俺の隣にいるマルのカラータイマーも同様に赤くチカチカしている。

 キュラス星人は二人に十分なダメージを与えたと思ったのか、またもや消えていなくなった。


「あいつ、逃げよったんか?」


 焦りをにじませるマルがつぶやいた直後、俺は後ろに何物かの気配を感じた。

 マルも同じだったらしく、俺たちは一度に振り向く。


「「!!!」」


 声を失った俺たちの真ん前に立っているのは、まさしくキュラス星人だった。

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