Eighteenth shot 黒波ソラを救え!
嫌な予感……胸騒ぎがする。
黒波の身が心配で、俺は校舎の周辺を自転車でぐるりと回った。
この辺りは住宅密集地で、マンション、アパート、戸建て住宅が建ち並んでいる。
黒波の姿はない。
彼女の自宅の場所を知らないから、これ以上は探すあてもない。
川に架かる橋まで戻り、一旦自転車を止めた。
この川は、市街地を流れる地元のシンボル的存在で、そのくせ河口に近いこんな場所でも水の流れてる幅は十メートル前後しかない。水深も浅く、両側の河川敷はそれぞれ川幅よりもずっと広い。
城址公園に次ぐ桜の名所で、両岸の土手沿いには多数のソメイヨシノが植えられている。
土手には一定間隔で防犯灯が設置されていて、河川敷の土手寄りの一帯にもうっすらと光が届いていた。
その河川敷に、人の気配を感じた。
目を凝らすと、五十メートルほど下流に人が立っているように見える。それも、二人!
俺は、自転車を置き、土手から河川敷へと伸びる坂道をゆっくり、足音を忍ばせながら下りていった。
河川敷には、背の高いアシがあちこちで密生していて、姿を隠すのには都合がいい。
近付いていくうちに、二人の姿形が段々はっきりと見えてくる。
十数メートル手前まで来て、それが向かい合って何かを話している黒波と岡本だとわかった。
どうして、こんな場所に二人がいるんだ?
もう少し近付けば二人が何を話してるのかわかりそうなんだけど、ここから先は茂みがないからすぐに見つかってしまう。
足元に、ちょうど握りやすい、長さ一メートルほどの流木が転がっている。何か悪いことが起きそうな予感に突き動かされ、俺はそれを手に取る。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! |」
黒波が突然激しくかぶりを振り、鋭い叫び声を発した。
黒波の肩を両手でつかんだ岡本の体は、たちまち緑色に光り、人間の形から、全身がイボに覆われ、上半身から気味の悪い突起物を何本も生やす醜い姿に変化した。
「やめろーーーーーーーーーーーーーー!」
俺は無意識のうちに茂みから飛び出し、怒声を張り上げながら二人に突進していた。
「大鳶く……」
俺を見た黒波が、そう言いかけたまま気を失って地面にへたり込む。
岡本、いや、岡本という化けの皮を被っていたキュラス星人は、俺と向かい合った。
黒波のオーラをあんな化け物に吸わせるものか!どうにかして、何としてでも助けないと!今それができるのは、俺しかいないじゃないか!
頭の中を占めている感情は、それだけだった。
体が熱い……とても熱く感じる……。
高熱が気後れを消し去ったのか、俺は振りかぶった流木を、ためらいなくキュラス星人の頭に思い切り振り下ろした。
ガツン!と強い手応えがあったのは、相手の頭を直撃したからではなく、左手の鋭いかぎ爪で受け止められていたからだった。
引き離そうとしても、ガッシリとつかまれ、ビクともしない。
とうとう俺の方が木を取り上げられてしまい、キュラス星人は両手でそれをいとも簡単にへし折ると、脇にポイと捨てた。
こりゃダメだ……俺がこんな化け物とまともな武器もなしにガチンコで戦える訳がない。
俺は倒れている黒波の隣にかがみ込み、抱き起こそうとするんだけど、重くてなかなか持ち上がらない。
そこへ、奴の右手が俺の首根っこに食い込んだ。
ぐいっと首が持ち上げられ、俺は無理矢理立たされる。
首を絞める手の指に、力が加わる。
ぐっ……く、苦しい……。
「ナカマヲ、サンニンモコロシタノハ、オッテキタ、ウチュウケイビタイダナ?オマエハ、ゲンチキョウリョクシャナノカ?」
それは口から発せられた言葉というより、脳波に直接作用するテレパシーのように感じられた。
「グフッ、グフッ……」
喉を締め付けられているから、どっちにしろ俺は何も答えられない。
「キョウリョクシャナラ、イカシテオクワケニハイカナイ。エネルギーヲ、スイツクシテ、イキノネヲトメル」
相手の腕が通常の人間よりかなり長いから、どれだけ手足をじたばたさせても、こっちのパンチもキックも相手に届かない。
俺は精一杯の力を込めて、奴の右腕を殴りつける。
俺が非力なのか、相手が強すぎるのか、そのどっちもなのか、全く効き目がない。
息が詰まる……体の力が抜けていく。このままじゃ、黒波はここでオーラを吸い取られ、俺は……殺される。ルナたちの申し出をもっと早く聞いてやり、俺自身も十分な心構えを持って共に行動していたら……。
ルナ……。
意識が朦朧となって、すぐ目の前にルナの笑顔が幻のように浮かび上がったような気がした。その時だ。
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