Fifteenth shot 校内ウルトラ捜索網、結成

 塾からの帰り道にコンビニで四人分の弁当を買ってマンションに戻ると、合い鍵を渡していた三人はすでに部屋でくつろいでいた。


「お、貴賀、帰ったのか〜。今日の晩飯は何だ〜?」

「貴賀はん、あてら登校初日やったさかい、もうくたくたなんや〜。お腹もペコペコ〜」


 カーペットでごろごろしているミラと、その隣でマルチタスクギヤの操作に熱中しているマルとは対照的に、ルナはニコニコと立ち上がって俺を出迎える。


「お帰りなさい、貴賀さん!塾、お疲れ様でした。あ、それ、晩ご飯ですか?」

「うん、店で温めてもらったから、冷めないうちに食べよう」


 キッチン横のテーブルに弁当を並べると、マルとミラも嬉々として集まってきた。


「うん、美味いな、この幕の内弁当ってやつも」

「ほんまや〜。地球の中でも日本国の食文化はどの国よりも発達してて、味も良いって、データには書いてあったもんな〜」

「昨夜、港の倉庫から帰った後で貴賀さんが買ってきてくれたハンバーグ弁当も良かったけど、これもいけるわ」


 三人とも、割り箸を上手に使ってパクパク食べている。

 俺がいない間、三人がうちの男子生徒と何をしてたのか真っ先に聞きたかったけれど、そんなことに一番関心があるのかと見透かされるのがためらわれ、ワンクッション置いた問いかけをしてみる。


「その箸の使い方も、頭の中にダウンロードされてるの?」

「ああ、日本の近世以降の風俗は全部ダウンロードされてるし、箸みたいに指先を使う技は、その運動プログラムが脳から関係する全神経に情報伝達され、自動的に必要な筋肉を動かせるようになってるんだ」


 大きな唐揚げにがっつきながら、ミラが説明する。そして、本題。


「放課後、棟田たちにどこ連れ回されたの?」

「校内を一通り見学させてもろたえ。そやけどあの子ら、無邪気で面白かったわ〜」


 ミラがタコさんウインナーを頬張りつつほくそ笑み、ルナも口元を緩めてうなずく。


「何か……楽しそうで良かったよね。俺なんかいなくてもさ」

「も〜、何いじけてんにゃな。あの子らには、これから大事な仕事をしてもらわなあかんのやから。そのために、大勢集まってもろたんや」


 俺の軽い嫉妬を見透かすように、マルがジト目をこっちに向ける。

 俺は努めて平常心を装いつつ、質問を重ねた。


「仕事?」

「ええ。貴賀さんも、二年生についてはある程度知ってるだろうけど、一年生や三年生を含めた全生徒の個人情報を完璧に把握してる訳じゃないでしょ?それに、生徒以外の教職員の情報についても十分には。それで、わたしたちは編入学したばかりで心細いし、新学期に新しく学校へ来た教職員や生徒と、慣れない環境にいる者同士、仲良くなって情報交換したいから、どんな人がいるのか教えてほしいって頼んだの。特に、一人暮らしや他県から来た人なら尚更」

「なるほど、そうやってまず、一か月前学校に現れた、キュラス星人の可能性がある怪しい奴をリストアップしようってことか」

「そーゆーこっちゃ。マイコン部の棟田はんと、放送部の藤原はんと、報道部の別府はんの三人を中心にして、協力してくれはる三十五人の男子をまとめてもらおうっちゅう寸法やがな」


 棟田は言うに及ばず、同じ二年で隣のクラスの藤原と別府も可愛い女子に目のない、目立ちたがりの出しゃばりだ。

 報道部は旧新聞部で、今は新聞の代わりに学校公認のニュースサイトを立ち上げて校内行事の案内、各クラブの活動報告、部活で好成績をあげた生徒のインタビュー、新任教師の紹介などを掲載している。

 このサイトの技術的な運営に協力しているのが、パソコンを使った電子工学研究の専門部隊・マイコン部。

 そして、アナウンサー志望者の巣窟になってる放送部。

 報道、放送技術、アナウンス……日本のマスコミはこの三つの要素でできあがってるようなもんだから、棟田、藤原、別府がタッグを組む〝高校版マスコミ〟の取材力にはかなり期待できそうだ。


 しかし、そんな捜索網をたった一日で作っちゃうんだから、ルナたちのキャラとパワーは尋常じゃない。


「リストアップされた対象者については、わたしたち三人が改めて密かに調査を行います。そのうえで、やはり怪しいと判断した人物には、捕縛の時と場所を吟味したうえで……貴賀さんにも同行してもらえれば……」


 ルナが言いたいことはわかってる。俺の承諾を……ルナも、マルも、ミラも求めている。俺のオーラを吸い取らなければ、彼女たちはキュラス星人とまともに戦えないんだから、当然だ。


 でも、心の中で……ルナたちにオーラを与えて、力になってやりたいと奮い立つ自分がいる一方、面倒には巻き込まれたくなくて、優柔不断なうえビビリの意気地無しときたもう一人の俺がブレーキをかける……。


 ルナはこの点についてそれ以上は触れず、晩飯を済ませた俺たちは早々に寝入った。


 ベッドには俺一人が、床のカーペットには私服を脱いで、俺のジャージを寝間着代わりにしたルナ、マル、ミラが川の字になっている。


 LED蛍光灯は就寝用の常夜灯にしてるから室内は薄暗いが、彼女たちの姿は案外はっきりと視認できる。そんな状況だからこそなのか、三人の寝相が、姿態がどうなっているのか気になり、あらぬ妄想と心の葛藤が睡魔をますます遮った。


 このシュールなシチュエーションは、一体いつまで続くんだろう……。

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