Fourteenth shot マドンナからコクられた!?

 そりゃ、これからいつまでになるかはわからないけど、彼女らとはマンションで一緒に暮らしていくことになるんだし、俺が始終くっついてる必要はない。かと言って、知り合ったばかりの男子らに、べったりへこへこついてくルナたちもルナたちだ……って、何だ俺は?

 ひょっとして妬んでるのか?ジェラシーってやつ?あ〜〜〜〜どうにもイライラして、ますます授業の中身が頭に入らなくなる。


 六時限目の授業が終わって放課後に突入すると、ルナたちの周りにはよそのクラスの男子までが集まってきて、教室は大にぎわいだ。そのうち、棟田らが校内を案内するとか校則を教えるとか言って、みんなでどこかに行ってしまった。


 残された俺は……水曜・放課後の予定をこなすしかない。

 塾へ行く前に、南校舎の生物実験室経由のルートだ。

 ルナたちと出会って以来、俺の心の中での黒波ソラの存在感に異変が起こっているような気がする。ゼロになったとかじゃなく、まだ心の中にしっかりと存在はしてるんだけど、占有率が若干?少し?ある程度?小さくなっているような……。ただ、いまだにこんな行動を俺に続けさせているんだから、学内で特別気になる女生徒なのは変わりない。

 帰り支度をして生物実験室の前を通ると、今日は引き違い戸が開いていた。


 ラッキ〜〜〜〜!


 廊下からこっそり覗き見ると、ウサギ用ケージの前にいる黒波の周りを、今日も今日とて十人近い男子部員が取りまいている。いつもの光景だ。


「子ウサギは順調に育ってそうなのに、親の方がまだ元気ないよね」

「そうなんです。父親の方も母親の方も。このところ、春を通りこして夏みたいな気温になる日が何度もあるから、それが影響してるのかしら」

「黒波さんの愛情をたっぷりもらってるんだから、そのうち元気を取り戻すよ」

「そうそう。俺のウーパールーパーもまだ調子が上向かないから、マジで黒波に飼育を手伝ってもらわなきゃ。ちょっと見てくれよ」

「おい、黒波さんの手に気安く触るな!」


 男子部員同士が揉めだした時、遠くにいる黒波と視線がぶつかった。

 ヤバい!見られてしまった!

 俺は即座に体の向きを変え、実験室の前を離れる。

 足早に廊下を進む俺の後ろで、誰かが実験室から出てくる気配がした。


「ねえ、大鳶くん?」


 今まで呼びかけられた経験のない、でも聴いたことのある声音。

 まさかとは思うけど……振り返ると、そこに立っているのは黒波ソラ、その人だった。


「えっ?あの、俺のこと、呼んだの?」


 想定外の事態に、しどろもどろになる。


「だって、君は二年三組の大鳶くんだよね?」

「うん、そうだけど、どうして俺の名前知ってるの?」

「クラスは違うけど、同級生じゃない。知ってちゃダメ?」

「全然ダメじゃないよ。だけど、特別目立つこともしてない俺なんかを、何でだろうって……」

「あたしは、二年一組の黒波ソラ」

「知ってるよ、黒波さんの名前は。だって、学校の有名人だし」

「有名人だなんて、大袈裟な。でも、あたしの名前を知っててくれて……感激だわ」

「あ、いや、そんな……」


 感激!?ホントに??そんな優しい言葉をかけられ、俺はうろたえてしまって、どうリアクションすればいいのかわからない。


「大鳶くんは……好き?……」


 黒波はトロンとした瞳で、唐突にこう聞いてきた。

 えええっ!!!好きかって?何という直球の質問!そんな、急に聞かれても……どうして俺が黒波に好意を持ってるって知られちゃったんだろう……こんな質問をしてくるなんて、もしかしたら黒波も俺のことを?……ううう、なんて答えればいいんだ!


 俺はその場で頭が真っ白になり、体がフリーズした。

 ここで「好きです」と言えば、俺たち付き合っちゃうことに?ちょっと待て。そもそも俺、付き合いたいと思うほど彼女に惚れてたのか?それを望んでたのか?……ふとルナの笑顔が頭の中をよぎり、どんどん広がっていこうとする夢想にブレーキをかける。


 口をもごもごさせている俺に対して、黒波は首を傾げた。


「好き、なんでしょ?動物とか生き物が」

「えっ?動物!?」


 俺は大きな勘違いをしていたのに気付き、バツが悪くてまたもや言葉につかえてしまう。


「だって、よく部室を覗いてるでしょ。生き物が好きなんだろうなぁ〜って」


 盗み見を完全に気付かれちゃってるよ……。


「はは……そ、そう、生き物だよね……結構好きかな〜〜」

「やっぱりね。優しそうな人だから、そうだと思った。お家で、何か飼ってるの?」

「飼ってはないかな……」


 これから食べさせなきゃいけない宇宙人は三人もいるけど。


「だったら、うちの部に入らない?部員も結構増えたし、顧問の先生が飼育する動植物の種類を増やそうって言ってたの。今なら、自分の好きな生き物を飼育させてもらえるかも」

「楽しそうだけど、俺、週三で塾に通ってるし」

「毎日出てこなくていいわよ。週に一回でも、二回でも」

「うん、考えとくよ。今から塾だし」

「あ、急いでるのに、引き止めちゃったのね。でも、大鳶くんが入ってくれたら、嬉しいな。ホントに考えといてよ」


 嬉しい!?マジでそんな風に思ってくれてるの?心が弾み、跳び上がりたい気分だ。でもそんな素振りを彼女には一切見せず、俺は平静を装い、できるだけクールに格好をつける。


「ああ、それじゃ」


 行こうとする俺に、黒波は「あっ、ちょっと」と待ったをかけた。


「変なこと聞くけど、今日ちょっと疲れてるんじゃない?」

「えっ?……そうでもないんだけど、どうして?」


 一晩ゆっくり寝てから、自分ではすっかり体調が戻ったと思いこんでたけど、他人からはまだへたってるように見えるんだろうか……。


「昨日、校門で会ったでしょ。あの時より、元気がないように見えたから……でも、あたしの思い違いみたいね」

「いや、心配してくれて、ありがとう」


 俺は緊張で強ばってたに違いない表情を極力緩め、黒波に手を振って別れた。


 校舎を出てからも、心臓がまだドキドキしている。

 黒波は、俺のことを知っててくれた……名前もちゃんと。それだけじゃない。自分の部活に勧誘し、俺が入ったら「嬉しい」とまで。これ……夢じゃないよな。


 それにしたって黒波、俺が疲れてるなんて、よくわかったよな〜。さすがにオーラを吸われて気力がダウンしてたなんてことまでは見抜けないだろうけど……朝からクラスメートも教師も誰一人として指摘しなかったような、他人にとってはごく些細な変化に気付くなんて……これって、やっぱり俺に気があるんじゃ?


 あれこれ想像を膨らませると、自然と顔がにやけてしまう。

 宇宙人とはいえ三人の美少女と一つ屋根の下で暮らすことになったのも含め、俺って人生初の特殊なモテキに入ってるんだろうか。


 これからどんな災難が襲いかかってくるかも知らず、俺は考えなしに浮かれていた。

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