Thirteenth shot 転校生は美少女警備隊!?

 目覚まし時計をセットし忘れてたというのに、翌朝俺は寝坊せずに起きられた。

 よく寝たせいなのか、昨日の倦怠感はなくなっている。つまり、俺の生命エネルギー、オーラは通常のレベルまで回復したってことなのかもしれない。


 三人に確かめてもらおうとカーペットに目をやる……いない、全員。

 朝の早いうちから、どこかへ出ていったらしい。

 それは捜索のためなんだろうけど、生体放射エネルギーセンサーもないのに、どうやってキュラス星人を見つけるつもりなんだろう。


 彼女たちがいないのなら、当面俺は通常通りの高校生活を送るしかない。

 コップ一杯のミルクと、封を開けたままのビスケットを何枚か胃袋に入れ、登校する。


 ショートホームルームが始まる午前八時半。いつものように担任であるハゲ頭の英語教諭・大石が教室に入ってきた。しかし、今日は一人じゃない。

 転校生らしき私服の女子三人がくっついてきてる。彼女らの顔を見て、俺は思わず「ええっ!」と声を上げた。


 大石と一緒に教壇に立っているのは、ルナ、マル、ミラ!


 隣の机にいる棟田が目尻を下げて俺を振り向き、シャープペンシルの先で腕を小突く。


「おい、昨日校門にいたお前の知り合いの子たちじゃないか。転校してくるんなら、そう言ってくれよ。水臭い奴だな〜〜」

「ははは、そだよね、悪い悪い……」


 顔が引きつってる。棟田じゃないけど、転校してくるなら事前にそう言ってくれよな〜。

 クラスの男子はほぼ全員が、ルナたちの超絶的な可愛さに見とれている。


「えー、先生も今朝聞かされたくらいで突然ではあるんだけど、今日からここにいる三人が、君たちのクラスメートになる」


 そう言った大石は、黒板に三人の名前を書いていく。


 「天海ルナ」「白雲ミラ」「星野まる子」。


「あまみるな、しらくもみら、ほしのまるこの三人だ。彼女らはそれぞれ親御さんの仕事の都合で五年前からアンティグア・バーブーダという国に住んでたんだが、日本で大学受験するため、家族と別れて帰国した。急な編入だったから、制服が届くまでは私服で登校する。この街は、偶然三人の親御さんの生まれ故郷でもあるらしいんだが、五年前と言えば彼女らはまだ小学生だ。街についても、それほど詳しくはない。勉強だけじゃなく、暮らしの相談にも乗ってやってくれよ。それじゃまずは、三人が使う机と椅子だが、一年一組と二組と四組の教室に一つずつ余ってるようだから、誰か持ってきてやってくれないか。担任の先生には、すでに話をしてあるから」

「「「「「「「「「「はい!はい!はい!」」」」」」」」」」


 十人ほどの男子が一斉に手を挙げ、命じられる前から教室を飛び出していく。その中には、棟田の姿もある。ルナたちは、瞬殺でそれだけの男子のハートをつかんだらしい。

 そんな様子を、女子たちは冷ややかな視線で眺めている。


 しかし、ちょっと待てよ……。うちの学校って、編入学の時の帰国子女枠ってあったっけ?進学校とは言えない普通の県立高校ではあるけど、海外から編入学するにはいろんな書類が必要だろうし、学力試験とか面接とか、それなりのプロセスを経ないと、こんなにすぐ入れてもらえないんじゃ?あの子たちは、どうやって……。


 ルナ、ミラ、マルの机と椅子は、教室の最後部に並べられ、一時限目の数学が始まる。


 教室のちょうど中程にいる俺が、後ろの三人を見やると……ルナが微笑みを返し、マルが右手でVサインを送り、ミラは無表情のままわずかにアゴを引く。


 全く何なんだよ〜〜〜。


 頭の中はもやもやだらけだし、後ろにいる三人がどうにも気になるし……数学の授業なんて全く集中できない。

 長く長く感じた授業が終わって休憩時間に入るなり、俺は三人の元へ歩み寄り、「ちょっと来てよ」とまとめて廊下に連れ出す。

 棟田をはじめ、教室の生徒たちは、俺と三人がどういう関係なのか食いつくようにガン見してくる。


 人のいない階段の踊り場まで移動してから、俺は口を開いた。


「うちの学校に編入してくるなんて、聞いてないよ。それに、宇宙人の君たちがどうやって学校に編入を許可してもらったんだ?」

「そんなこと言うたかて、この学校に少のうてもまだ一匹はいるんが確かなんやから、あてらが直接潜入して確かめるしかあらへんやないの」

「昨日の倉庫には、奴らのアジトらしい痕跡はなかった。元々あたいたちをおびき寄せるために入っていったんだろう。この学校以外に怪しい場所は突き止めてないし、センサーが使えない状況では、広い街の中をあてもなく探しまわるなんて、あまりに非効率的だろ」


 興奮気味の俺に、マルとミラが落ち着き払って答える。


「そういうことです」


 ルナがニコリと俺を見る。


「この学校に編入すること、あらかじめ言っておかなかったから、びっくりさせてごめんなさい。でも、そうしようって話になった時、貴賀さんもう寝てたから。起こすのは悪いと思って、作業をどんどん進めてしまったの」

「進めてしまったのって……作業?どうやって編入を?」

「貴賀さんが住んでる県の県立高校では、『高等学校長は、編入学を志願する者に対して、編入学の許可又は不許可の決定を行うため必要があるときは、学力検査、面接等を行うことができる』とされていて、必要十分な条件がそろっているなら、試験や面接を受けず、即日編入学できると判断したのよ。それで、校長先生が納得できる書類を大急ぎで作って、朝一番で登校したという訳」

「作って?校長が納得するような書類を?どうやって?」

「そら、マルチタスクギヤしかないやないの。いろんなデータを検索して、書類を整えるのにえろう時間がかかってしもて、ほとんど寝てへんのやから」

「一応、アンティグア・バーブーダの日本人学校に通ってたことにしないといけないから、その学校長がこっちの県立高校の校長に宛てる転学照会、在学証明書、学業成績証明書、単位修得証明書。これだけじゃ不十分だと思って、外務省の在アンティグア・バーブーダ大使と、文部科学大臣と、内閣総理大臣から、わたしたちを速やかに編入学させるよう要請する推薦状まで用意したんだぞ。さすがにこの三通の推薦状を読んだときの校長の顔は、お前にも見せてやりたかったぜ」


 満足げにマルとミラが言い添える。


「それって、本物じゃないよね?」

「当たり前だろ。あたいたちは、地球に来たばかりなんだから」

「そんな大それた偽造書作って、バレないのか?」

「紙に文字を印刷するなんていうレベルの文化技術やったら、マルチタスクギヤで完璧な細工と複製ができるんやから。それに、もし校長先生が疑念を抱いた場合のために、問い合わせ用の電話番号も外務省と文科省の二つ、教えといたった。そこに電話かけたら、回線がこのマルチタスクギヤに接続されて、自動応答する人工知能が適当に相手を言いくるめるよう設定してるの。完全無欠の仕事やろ〜〜〜〜」


 ははは……何て奴らだ。


「住所は?君たち、どこに住んでることに?まさか、俺のマンションってことは……」

「そんなアホなことするかいな。マルチタスクギヤでインターネットに入って、不動産検索かけたんや。そしたら郊外のマンションに適当な空き家があったさかい、一応そこを書類に書いといたった。まあ、家庭訪問でもされん限り、バレへんやろ」

「あっそ……」


 全く、大胆不敵というか、ずる賢いというか……。


「お〜〜い、天海さ〜ん、白雲さ〜ん、星野さ〜ん、二時限目始まっちゃうよ〜〜!」


 教室から出てきた棟田が俺たちを、いや美少女転校生三人組を呼んでいる。ホントに調子のいい奴だよ。


 この後、授業と授業の合間の休憩時間には、棟田をはじめとする男どもが三人を取り巻いて質問責めにし、昼休みには俺をそっちのけで鈴なりになって食堂へ連れてった。

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