Eleventh shot 秘奥義開眼
勢いよく飛び出した俺は、ルナの体を抱いて床に倒れこむ。
ダーーーーン!
俺たちの体をすれすれに通り過ぎた炎弾が、奥の壁に命中して穴を開ける。
勢いのあまり、俺とルナは抱き合ったまま床を横転し……偶然、たまたま、はからずも、思いがけず、二人のくちびるが触れた。
柔らかいくちびる……マシュマロが押しつけられたような……まさか俺……彼女と……生まれて初めてのキスを?
そう認識した途端、全身がカーッと熱くなり、頭の天辺から足のつま先まで強烈な電流が流れたような感覚に陥った。
くちびるが触れあったまま、ルナの目が大きく見開く。
ピシュゥーーーーン!ピシュシュシュシュシュシューーーーーーーン!
耳をつんざく高周波音と、眩い閃光。
思わずつぶった目を再び開けた時、眼前にいたのは……深紅のラインが入った銀色の戦闘コスチュームに身を包むルナだった。
ルナが、戦闘モードになってる!!!
「貴賀さん……あなた……」
ルナが何かを言おうとした時、猛スピードで駆ける足音が急速にこっちへ向かってきた。
「そんな!ウソやん、ルナちゃん!」
「ルナ、お前どうやって!」
もう一体のキュラス星人から逃げてきたマルとミラが、俺たちを見下ろし、驚きで棒立ちになっている。
我に返ったルナは素早く立ち上がり、俺の手を引っぱって立ち上がらせると、腰のプラズマソードを抜いてキュラス星人に対した。
ダーーン!…ビシーーーーン!
ルナに向けて発射された炎弾を、光刃と化したプラズマソードが跳ね返す。
キュラス星人は、さらに続けて撃ち出そうと、両腕をわずかに前後させる……が、炎弾は発射されない。何度も腕を前後に振るが、結果は同じだった。
「やっとエネルギーが尽きたようね」
安どのため息をついたルナの背中越しに、マルが「もう一匹も同じ状態や!」と告げる。
そうこうするうち、マルとミラを追いかけてきた一体が、仲間に合流した。
「マルさん、ミラさん、ここからは接近戦よ。貴賀さんの力を借りて、早く戦闘モードにチェンジして!」
「はあ?どういう意味だ、ルナ」
「何でまた貴賀はんに?」
敵に顔を向けたままのルナに促され、二人はいぶかしげに傍らの俺をまじまじと見る。
次の瞬間、マルとミラはそろって口をあんぐりとさせた。変身したルナにばかり気を取られ、すっかり見過ごしていた俺の激変を目にして。それは、俺自身も自覚していない変化だった。
「き、き、貴賀はん、あんたどないしゃはったん?」
「尋常じゃないオーラパワーだ。一個体で、これだけ強力なエネルギーを放射するなんて……信じられない」
二人はどうやら俺について話してるようだけど、何のことやらさっぱりわからない。
「わたしにも今理由をきちんと説明できないけど、貴賀さんの放つオーラが、エレミュレーター光線の代替作用を有するのは確かだわ。だから早く戦闘モードに!」
「早くしろって言ったって、具体的にどうすりゃいいんだ?」
「肉体同士の接触!おそらく間違ってない!」
「え〜〜〜〜〜、こんな現地生物とスキンシップしろって言うのか!」
「でもミラちゃん、そんなこと言うてる場合やないわ。あて、握手くらいやったら全然どーってことないえ」
一方、二体で並び、意味不明の言語で会話をしていたキュラス星人は、身構えながらジワジワとこちらに詰め寄ってきた。格闘戦で勝負を決めるつもりのようだ。
ぐずぐずしているマルとミラにしびれを切らし、ルナは両手で握るプラズマソードを相手に向けつつ、離した左手で俺の背中を強く押した。
「許してね、貴賀さん!」
「わわわわわ!」
バランスを崩し、前のめりになった俺は、正面にいるマルとぶつかりそうになり、反射的に手を前に出した。
ぐにゅ……。
愛用してるアニメキャラのおっぱいマウスパッドとは比べ物にならないほど柔らかく、ボリューミーな感触。俺は自然な流れで、マルの爆乳を両手でむんずとつかんでいた。間髪入れず、体の中を強い電流が走る。
「うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜!」
悲鳴を上げたマルに思い切り突き飛ばされ、俺は逃げようとするミラの方へ足を滑らす。
ピシュゥーーーーン!ピシュシュシュシュシュシューーーーーーーン!
高周波音と閃光に包まれながら、倒れこむ俺が次に引っつかんだのは、ミラの丸くてプリンとしたお尻だった。
「きゃん!」
ミラの小さな叫び、そして、再び俺を襲う電流。
ピシュゥーーーーン!ピシュシュシュシュシュシューーーーーーーン!
立て続けに発生した高周波音と閃光が収まると、胸を両腕で隠すように縮こまるマルと、ヒップを両手で押さえて逃げ腰のまま固まるミラの姿は、戦闘コスチュームに変わっていた。
超小型核融合炉を破壊され、変身できないはずの三人が戦闘態勢を整えたことで、二体のキュラス星人は動きを止める。
「マルさん、ミラさん、何してるの!戦闘開始よ!」
ルナの叱咤で正気に戻った二人は、慌てて彼女の両隣に並ぶ。
「わたしは右側の相手に斬り込む。ミラさんは接近戦用の武器で左側をお願い。マルさんは、貴賀さんをガードしつつ、遠隔攻撃でわたしたちを援護して!」
「任しとけ!投てきもできるプラズマブーメランを使うぜ!」
ミラが、右足に付けたホルダーから「く」の字型の道具を引き抜く。
「あても了解や!思う存分、やったるで!」
マルが、後ろにいる俺の横に移動し、プラズマシールドを張る。
ルナとミラが一斉に踏み出し、それぞれの敵に向かって突貫した。
ルナが振るう斬撃を、相手はたやすく避けながら後退する。その動きは軽やかで、かなり手強そうに見える。あれが、養護教諭に化けていた奴だ。
ミラは、プラズマブーメランをサバイバルナイフのように持って斬りつけている。手で持っていない方の翼部分は青白く光っているから、ルナのプラズマソードのようにプラズマ化してるんだろう。こっちの相手はそれを鋭いツメで受け止め、弾きつつ、引っかくような反撃を繰り出す。勝負は互角といったところか。
「んもぅ〜〜〜。遠隔攻撃で援護しろて言うたかて、あんなに接近してたら何にもでけへんやないの〜」
マルがイライラしながら手のひらで転がしているのは、長楕円体の物体だった。
「それ、プラズマ手榴弾?」
「ううん、爆弾やあらへん。プラズマバンでいう、一種の閃光発音弾やな。対象物の殺傷を目的にはせんと、一時的な眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状を誘発させるんや。しかもあてが持ってるんは、キュラス星人には特に効果があるという優れものなんえ。ただし、一発分しかないし、その音と光はあてらにも少なからず影響を与えるさかい、うまいこと使わんとな」
得意気なマルの表情が、何かに気付いて一変した。
「何?どうしたの?」
「聞こえへん?ルナちゃんの方から……音が」
激しく戦うルナに向かって聞き耳を立てる……確かに、聞こえる。連続した電子音?
ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン……。
音源は……ルナがネクタイピンのようにして付けている青くて丸い石!その石が、青じゃなく赤色になって点滅している。
ルナは確かに平静さを失っており、攻守が入れ替わって防戦一方になっていた。
「何で……なん?……」
マルの顔から血の気が失せている。
「ねえ、あの石は飾りじゃなくて、何かに使う道具なのか?どうして色が変わったの?」
「あれは、カラータイマーや。戦闘モードで活動できるエネルギー残量を示すバロメーターで、青色は戦闘継続が可能であることの印。そやけど残量がのうなってきて活動制限時間が迫ってくると、赤色に変わり点滅と警告音を出すねん。いよいよ戦闘不能てなると、点滅と警告音の間隔がどんどん速まって、最後には元の姿に戻ってしまうんや」
「じゃあ、もうすぐルナは戦闘できなく……」
「本来のエレミュレーター光線でのモードチェンジやったら、一時間は十分に戦えるはずなんや。そやのに三分も経たんうちに点滅するやなんて……貴賀はんのオーラエネルギーがなんぼ強いいうたかて、しょせんエレミュレーター光線の完全な代替物にはならんかったていうことやな〜。え?そしたら、あてやミラちゃんも!」
マルが下に目をやるなり、胸のカラータイマーは赤色になって点滅し、警告音を発し始めた。
俺とマルは、ミラに目を向ける。
やはりミラのカラータイマーも点滅を始めており、敵のかぎ爪攻撃が激しさを増して不利な状況に陥っていた。
「もう時間があらへん!早いとこケリを付けてしまわな。戦闘モードが解除されたら、またまたこっちがピンチになってまう」
「だったら、そのプラズマバン、今使うんだよ!もたもたしてたら、どっちにしろ消えてなくなっちゃうんだろ?ルナとミラのいる場所の中間あたりに。さあ、早く!」
「う、うん!」
俺に急かされて、マルはプラズマバンの頭頂部にあるボタンを押し、振りかぶった。
ルナは、かぎ爪での攻撃を縦横無尽に仕掛けられて足をもつれさせ、床に膝をついていた。隙のできた彼女の頭部に、キュラス星人が渾身の一撃を加えようとしている。
ミラも、劣勢のままコンテナの側面を背にして追い詰められていた。
マルが「えいっ!」と投げたプラズマバンは、二人が戦っている十メートルほど先へと放物線を描く。
ころころと転がってきた物体に気を取られ、二体のキュラス星人は動きを止めた。
「ルナーーーー!ミラーーーー!すぐに目をつぶって、耳を塞ぐんだーーーー!」
声を張り上げた俺の袖を、マルが引っぱる。
「貴賀はん、あてらもや!」
急いで顔を伏せ、両耳の穴を指で塞ぐ。
パァーーーーーーーーーーーーーン!
けたたましい爆発音と同時に、周囲が急激に明るくなったのは、目を閉じていてもわかった。
数秒も経たないうちに、マルが俺の腕を指でつつく。
「もう目を開けてもかまへんよ」
俺はまぶたを開け、すぐさまルナの方へ視線を向ける。
目に飛び込んできたのは、仁王立ちするキュラス星人の右脇腹から左肩にかけて、片膝をついたルナのプラズマソードが斜めに斬り上げた直後の光景だった。上半身をほとんど両断されたキュラス星人は、一言も発することなく仰向けにドサリと倒れる。
ミラの方は音と光の影響を少し受けたらしく、足元がややふらついていたが、彼女よりもっとダメージを受けていたのは、もう一体のキュラス星人だった。
大きな両眼を手で覆い、体をぐらんぐらん揺らして今にも転びそうだ。
ミラが無理なら、ルナの斬撃で容易に倒せる状況に思えたが、そのルナもまた眼前の敵に一太刀を浴びせるのが精一杯だったようで、すぐには動けない。
相棒が斬られ、ルナとミラがすぐに攻撃してこないと悟ったキュラス星人は、俺たちに背中を向けて逃げる態勢に入った。大きくジャンプしてコンテナの上に飛び乗る。このまま出入り口を目指すつもりだ。
「逃がすものか!」
力を振りしぼって足を踏ん張り、ミラがプラズマブーメランを放った。
高速回転するブーメランは青白く光る円盤のような形になって空を切り、次のコンテナに飛び移ろうとしたキュラス星人の首をスパンとはねた。
絶命したキュラス星人の体が床に落ち、プラズマブーメランは大きな円軌道を描いてミラの手に戻ってきた。
「終わった〜〜〜〜。ほんまに一時はどうなることかと思たけど」
マルが胸をなで下ろし、プラズマシールドを解除する。
俺は、まだ片膝を付いたままでいるルナの元へ歩み寄ろうとしてハッとなる。
ルナの体が急にキラキラと光り出し、光が消えると元の私服姿になっていた。
それを見たマルが「あっ」と声を発して、ミラに振り向く。
「ミラちゃん、戦闘モードが解除される前に、分子破壊投射機で囚人の処理を!」
「わかった!」
左腰に下げた分子破壊投射機を手に取り、ミラが二体を消し去ったのとほぼ同時に、彼女とマルも元の姿に戻った。
超小型核融合炉が壊されるという大変な問題を抱えたまま、俺たちは当面のピンチをどうにか切り抜けた。
それにしても、体が尋常じゃなくだるい。それは緊張から解放された安堵感の副作用だけが原因では……きっとないはずだ。
だって俺は自分のオーラ?を、彼女たちに……。
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