Ninth shot アジトに潜入したら……
港から海岸沿いに少し東へ入ると、倉庫の密集エリアに入る。
小型フェリーや高速船がメインの港ではあるが、ここには貨物埠頭も設けられていて、コンテナの積み卸しを行うガントリークレーンも設置されている。当然のことながら、貨物埠頭の周辺には多くの倉庫が建ち並んでいた。
矢野は、そのエリア内へと進んでいく。尾行には気付いてないようで、ただの一度も立ち止まったり、振り返ったりしない。学校に残っているもう一体が、俺たちを逆につけてきていないか、マルは時々後ろにもセンサーを向けてチェックしてるけど、その心配はどうやらなさそうだ。
「矢野先生って、まさかこんな場所に住んでないよな。どうして、倉庫街なんかに……」
「しっ!そやから、先生やないんやって」
つい言葉を発した俺に、マルがセンサーに目を落としたまま注意する。
やがて、矢野は古びた倉庫の前で止まり、鍵のかかっていない大きなハンガードアを開けて中に入った。この外観からして、おそらく今は使用していない建物だろう。
俺たちも、倉庫の前へと進む。
「ここがアジトなのかしら?マルさん、センサーは?」
「奥へ移動してるえ。こんだけ年季の入った倉庫やさかい、アジトの可能性は十分あるわ」
「てことは、あの女教師以外にも仲間が潜んでるんだな。戦闘コスチュームに着替えて、プラズマ手榴弾でもぶちかましてやるか?」
「ミラさん、最初から手荒なことはしたくない。こっちが攻撃的な姿勢を見せれば、相手を最初から刺激して、抵抗せざるを得なくしてしまうわ。わたしたちもこのままの姿で、交渉を試みてみましょう。ひょっとしたら、投降してくれるかもしれない」
「甘いんじゃないか?まあリーダーはルナなんだから、従うけどさ」
「ルナちゃんの言うように、戦いは極力避けなあかんわ。もし戦闘になって高密度エネルギー弾でも乱射されたら、この辺り一帯大火事になってしまうえ」
三人は目で合図し合って意見の一致を確かめると、ミラが上吊り式のハンガードアをゆっくりと開ける。
「貴賀さんは、わたしたちの後からついてきて」
「うん」
ミラ、ルナ、マル、そして俺の順番に中へ足を踏み入れる。
テニスコートが五つ六つ入るくらいの広さがある庫内には、天窓から陽光が差し込んでいて、劣化した巨大なコンテナがいくつも無造作に放置されているのがわかる。一見、巨大迷路みたいな様相を呈し、奥の方はどうなってるのかよくわからない。
錆びた自転車やバイク、何に使うのか分からない金属製の大型機材などがあちこちに散乱し、誇りっぽくて、クモの巣だらけだから、随分長い間、人は出入りしてないんだろう。
矢野の姿は見えない。
「おい、あいつはどこにいるんだ?」
「もっと奥の方やと思う……」
「進みましょう」
センサーのモニターを食い入るように見つめるマルを、ミラとルナが前後に挟み、周囲を注意深く見回す。三人の二メートルほど後ろを、 俺がついて行った。
どうしてかわからないんだけれど、後ろの方が妙に気になる。
何でだろう……。何度も振り返ってはみるものの、特に異常はない。
倉庫の真ん中辺りまで進んだ時、マルが急に立ち止まり、センサーを後ろに向けた。
「ウソ!」
「どうした、マル?」
「前だけやのうて、後ろにもいる、もう一匹!あてらが入ってきた扉の近くに!」
まさか!俺のカンが的中した!?
「この倉庫の近くにまだ一匹いやがったんだな!となると、尾行はとうに気付かれてて、あたいたちは退路を断たれ、挟まれたってことか!こりゃ、おとなしく話し合いに応じる態度じゃないぜ。ルナ、もう悠長なことは言ってられないぞ」
「ええ、戦闘コスチュームにチェンジしましょう。マルさん!」
そう言われるよりも早く、マルは床にセンサーを置き、デイパックを下ろす。中に入れている超小型核融合炉を操作してエレミュレーター光線を照射するために。
しかしそれとほぼ同時に、床のセンサーが炎弾の直撃を受けて弾け飛んだ。
撃ってきたのは、出入り口の側にあったコンテナの上からだ。
バシッ!バシッ!
俺たちの足元に、二発目、三発目の炎弾が続け様に撃ち込まれ、床に穴を開ける。
「コンテナの陰に隠れて!」
ルナに促され、俺たちは一番近くにあるコンテナへと慌てて身を翻した。このコンテナは出入り口に向かって右寄りに置かれており、高さが三メートル以上ある。防壁にはもってこいだ。
「マル、早くしろ!光線はまだなのか!」
ミラに急かされたマルは、引きずってきたデイパックを見据えたまま固まっている。
「何じっとしてんだ、マル?」
「どうしたの、マルさん?」
二人に尋ねられ、一拍置いてからマルが口を開いた。
「あかん……核融合炉が動かへん……」
「「ええっ!!!」」
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