Third shot 公園は戦場と化した

「あなた、危ないからしばらく動かないで!」


 金髪の子に声をかけられ、俺は訳のわからないまま「え?あ……う、うん」と口ごもりつつうなずく。


 化け物に向き直った彼女が、腰に差した日本刀を抜く。

 その刀身が青白く発光したのを見届けた赤い髪の子は、腰に付けていたピストル状の道具を両手で握り、化け物に向ける。


 ピキューン!ピキューン!ピキューーーーーン!


 銃口から三発連続で発射されたのは黄色く光るビームで、化け物はそのごつい体格からは想像もつかない軽やかな動きで回避しつつ、両腕から炎弾を乱射した。


 金髪の子と赤い髪の子は機敏に攻撃をかわし、左右に別れて化け物に突進する。


 その間に、炎弾の一発が俺の足元近くの地面を吹き飛ばした。

 すぐさま、戦闘に加わっていない青い髪の子が俺の前に飛んできて、腰から取り出したメリケンサックみたいな物を右手のこぶしに装着する。彼女が右手を上げると、拳から光が拡散し、俺の目の前に半透明の壁だか幕ができあがった。


「あの……これ、何?」

「ん?プラズマシールドやけど、知らんの?太陽系・地球星の日本語やったら、『バリア』て翻訳した方がわかりよいのやろか〜」


 彼女の言葉が終わるか終わらないうちに、化け物の発射した炎弾がこの壁に当たった。

 炎弾は完璧に弾き返され、花火のように飛散する。プラズマシールドとやら言う防壁の命中部分には、何の変化も起きていない。


 一方、金髪と赤毛の子は、化け物の周囲を目にも停まらぬ速さでグルグルと回り、退路を断つのに成功していた。

 化け物は素早く動く二人に焦点を合わせられず、目をクルクルさせながら炎弾を撃ちまくるが、一発として当てられない。


 ピキュン!ピキュン!ピキューン!ピキューーン!ピキューーーーーン!


 青い髪の子が急に立ち止まると共に、後ろ側からビームを五発連射した。

 全弾が命中した化け物の背中から、血のようなドロッとした緑色の液体が飛び散る。


「グロロロローーーーー!」


 化け物は怒りに満ちた咆哮を発し、青い髪の子に向き直って炎弾を放とうとした。

 その刹那、青白く光る刀を振り上げた金髪の子が、化け物の後背に向かって突っ込み、大きく躍り上がった。


 一閃!


 肩口から入った斬撃は、化け物の体を斜めに両断した。


 ドオッと芝生に倒れた化け物が、もう身動き一つしないのを確かめた金髪の子は、刀を腰の鞘に戻す。

 呆気にとられている俺を横目に、青い髪の子は右手を下げてプラズマシールドを消すと、仲間に快哉を叫んだ。


「すごい、ルナちゃん!さすがやわ〜〜〜!最近見てへなんだけど、剣の腕前はちっとも衰えてへんえ〜〜〜!」

「おい、マル!あたいの的確な陽動がなかったら、ルナだってあんな斬撃はできなかったんだからな!そこんところを考え違いするんじゃないぞ!」


 赤毛の子が、不服そうに文句を言う。


「もう、ミラちゃんいうたら、ほんまにいつもいつも細かいな〜。そんなことより、殺処分してしもたんやから、早う分子破壊投射機で後片付けしといた方がええんとちゃう?」

「いちいち言われなくたって、わかってるよ!」


 赤毛の子は面倒くさそうにガンを腰の右側のホルダーに仕舞い、左側に下げているショットガンみたいな道具を手に取った。小さな器具をさらに取り付け、つまみを回して何かを調整しているように見える。


「あのさ……あれは武器なの?」


 ショットガンに似た道具について青い髪の子に尋ねると、彼女はニコニコしながら「う〜〜ん、武器ていうより、道具やろか。あれは分子破壊投射機なんえ」と得意気に言った。


「分子を…破壊する…機械?」

「うん。分子間の静電結合力を中和して、対象物を熱発生なしに原子の細かい塵、あるいはガスへと崩壊させる装置やの」


 ははは……マジかよ。


 準備ができたらしく、赤毛の子が砲口を化け物の死体に向けた。

 オレンジ色の光線が発射され、数秒間射出され続ける。

 すると化け物の体は同じオレンジ色の光に包まれ、見る見る収縮し、消えてなくなってしまった。


 赤毛の子が、化け物の消えた地面から小さな金属片を取り上げ、仲間を振り返る。


「囚人認識票、確保した!」


 金髪の子と青い髪の子が、首を縦に振る。


 囚人認識票?あの化け物は囚人?ぐったりしたまま口をあんぐりさせている俺に、金髪の子が近付いてきて、腰を屈めた。


「あなた、大丈夫だった?どこも負傷してない?」


 向けられた笑顔がキラキラ輝いていて、あまりに美しくて、俺はすぐに返事ができず、しばらくぼ〜〜っと見とれてしまった。


「話せないってことは、まさか、舌とか喉とかを傷つけられたんじゃ?」


 急に顔を曇らせ、俺の喉元に手を当てようとする金髪の子に、慌てて手を振る。


「違う違う!どこにも傷なんてないし、痛い所もないよ。それより、助けてくれてありがとう」


 俺はどうにかそんな言葉を返し、金髪の子、青い髪の子、そしてこっちに戻ってきた赤毛の子へと順繰りに視線を移した。


「礼には及びません。これはわたしたちの使命なんだから」


 金髪の子が微笑む。


「使命って……君たちは一体何者なんだ?それにあの化け物……」


 俺の問いに、金髪の子が両隣にいる青い髪の子と赤毛の子を引き寄せて背筋を正した。


「わたしたちは……エムル八七銀河の綺羅の国を拠点とする宇宙警備隊で、アンドロメダ銀河方面偵察大隊の第五百七十九万八千七百五十三分隊に所属する……歴とした宇宙警備隊員よ」


 はあ???はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!

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