Second shot 未知の恐怖との遭遇
よく見ると、長い髪の女性が芝生の上でうつ伏せになっていた。寝ている?まさかそんなはずないよな……。
舗装された道に自転車を置き、俺はゆっくりと近寄った。
「タ……スケテ……」
助けて?うつ伏せ状態の顔から、微かにそう聞こえた。
俺は慌てて駆け寄り、女性の背中を揺さぶる。
「ちょっと、大丈夫ですか?どこか痛いんですか?それとも気分が悪いとか?」
尋ねても返事がない。
仕方なく、俺は彼女の上半身を抱き起こして、仰向けにしようとした。
重い……なかなか持ち上がらない。
ようやく体を横向きにして、彼女の顔を覗き込んだ……その瞬間、俺はギャッと叫び声を発して後ろに飛び退いた。
だって、彼女の顔は、普通の人間のものじゃなかったんだから!
それこそ顔の輪郭や、鼻、口は人間のそれと何の変わりもなかった。問題は目だ。
両眼にあたる部分が、二か所大きく円すい形に飛び出し、先端の黒くて丸い瞳が左右別々にせわしなく動いていた。
そいつはのっそり立ち上がると、俺に向き直った。と見る間に、体全体が緑色に発光し、人間の形から、俺が今まで見たことのない化け物の姿へと変化した。
マジかよ……こんなの現実にあるはず……。
足が震えて動かない。それでも、化け物がこっちへ近付いてこようとしたのを見て防衛本能が勝ったのか、弾かれるように後ずさりした。
数歩下がったところで、背中が何かにぶつかる。桜の木だ。
「プシュー……ブジュブジュジュ……プシューゴボゴボ……」
不気味な呼吸音を発する長い鼻が持ち上がり、先端が俺に向けられた。
すると、目には見えない、何だか妙な〝念力〟を浴びせられてるような感覚になり、たちまち金縛りにあってしまった。
化け物の上半身から生えている管のような突起物の先端までもが、一斉にこっちを向く。
何だあの管は?どっちにしたって、すぐ逃げなきゃ!それはわかっていても、体が全く言うことをきかない。
俺はこいつに何をされるんだ?殺されるのか?食われるのか?
助けを呼ぼうにも、声すら出せなくなっている。
化け物が、のそりと足を前に出した。相手との距離は、数メートルほどしかない。
もうダメかも……。
心臓が、バクバク音を立てる。
「いた!あそこよ!」
若い女性の声が、少し離れた場所から聞こえたのはその時だった。誰かがこっちに走ってくるのも足音でわかる。
バラバラに動いていた化け物の両眼が、揃って足音の方へ向く。
俺も反射的にその方向へ目を向けようとした。手足はまだビクともしないけれど、顔だけはどうにかわずかに動かせる。
視界に入ってきたのは、こっちに向かってダッシュしてくる三人の少女だった。
取り立てて特徴のないカジュアルな服装の少女たち。ただし、その髪の色といい、目鼻立ちといい、三人とも並外れたルックスの持ち主だったんだ。
三人が、俺を守るようにして、化け物の前に立ちはだかる。
こっちを向いていた長い鼻や突起物の先端が一斉にだらりと下がり、化け物は警戒するかのように二、三歩下がった。
その直後、体を締め付けられる感覚がすーっと消え、俺は脱力してへなへなとその場に尻もちをついてしまった。
「さあ、やっと見つけたわよ。観念しなさい!」
「おい、もし抵抗しようなんて妙な気でも起こそうもんなら、容赦はしないからな!」
「念のために言うといたげるえ!宇宙刑法上、レベル五以上の罪で拘禁状態にある者が逃走を図り、公務の執行を妨害した場合、即座に処刑されてもしゃあないんやから!」
何の意味だかさっぱりわかんないんだけど、三人に啖呵を切られた化け物は、束の間おとなしくなったような素振りを見せる……が、ふいに両手の指を交互に組み合わせたかと思うと、前に勢いよく突き出した。同時に、手から赤い火の玉がこっちに向かって打ち放たれた。
少女らはすばやく左右に飛び退いてかわし、火の玉は俺がへたり込んでもたれている桜の木に「ボンッ!」と音を立てて命中した。
俺がぼう然としたまま見上げると、三十センチくらい頭上の幹にこぶし大の穴が開いている。
「交渉決裂!マルさん!」
「任しとき!」
金髪の子に声をかけられた青い髪の子が、背負っていたデイパックをサッと地面に下ろし、中に手を入れてごそごそやり出す。
間髪入れず、「キュイーーーーーーーーン……」という金属音と共に、デイパックから稲妻のような光が放たれ、三人を直撃した。
そして、耳をつんざく音と閃光。
思わず閉じた目を再び開けた時、三人の少女は銀色に深紅のラインが入ったお揃いのコスチュームを身に付けていたんだ。
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