ツグキリ製薬

 中央地区にはツグキリ製薬の本社を含め我が国屈指の企業の本社が立ち並んでいる。かつての首都であった頃の面影は残っているものの人口が減った現在では自動化が大幅に進み道を行く人々が所せましと歩いていた過去とは違い指で数えられるほどの人が歩いているに過ぎない。統計上労働者の数は最盛期と遜色がないというのが地区にオフィスをもつ老舗企業の自慢のタネの一つであるそうだが、こういった景観を見てしまうとそれが本当かどうか疑わしくというものだ。

 ビル群の中でも一際大きく異彩を放つように反り立った形をしているのが目的のビルだ。このあたりで最も古く、かつ最新鋭の形をしていると会社のPR雑誌に掲載されている通り、多くの人はまずどういった構造で建てられているのか想像できないような角度で曲がりかつ歪んだ形であることに驚くだろう。比喩表現の類ではなく本気で巨大な何ものかが手でつまんでひねりながら曲げたのではないかと私は思った。

 次に外観にそぐわない建物内の寸分の狂いもなく正方形にされた内装と形状に驚かされるのだ。このアンバランスさがビルそのものをひどく奇妙で不可解な物体であると印象付けていた。

「ようこそ、ツグキリ製薬本社へ。ご用件は何でしょうか?」

「取材の申し込みをしていた林といいます。開発部門の八折司様はいらっしゃいますでしょうか?」

 受付に行きおそらく彼女も人造人間であろう…に要件を伝える。どこかに電話した後取材の許可が下りた。教えられた階にエレベーターで行き、八折の名前が入ったプレートがかかった研究室の扉を叩く。

 室内は資料の山であふれかえり足の踏み場もない状態だった。辛うじてデスクと仮眠を取るためだろうかソファー周りだけが整理され空間があった。

「話は聞いてるよ。ええと林君だったかなぁ」

 資料の山の中からすっと顔が出てきた。鳥の巣のように伸びきった髪、剃られずに伸びたままになっている髭、眼鏡のせいで人相は分からず仙人というべきか根無し草というべき風体が八折司の第一印象だった。

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