あの日の出来事

前日、私の幼なじみが遠方から遊びに来ていたため

夕食を一緒に作った。

何を作ったのかは覚えてないが、1品だけ覚えている。

アスパラベーコン。

その残りを夜遅く仕事を終えて帰宅した父が食べて

「あれ美味かったなあ」って言ってくれた。


実は、父とまともに会話したのはこの時が最後。


2月で雪の降る地域だったこともあり

次の日は結構吹雪いていて

父は車を掘り起こしに私が起きるよりも少し早く外に出ていった。

この時、父の後ろ姿を最後に見た。

(家の構造上、父の部屋から玄関に行くのに私の寝てる部屋を通るため)


私が起きて朝ごはんを食べていると

玄関から祖母の「大丈夫?」と言う声と

「死にそう」と言って自分の部屋に行く父の声と足音が聞こえた。


なんでも、お腹が急に痛くなって玄関に蹲っていたんだと。


お腹の弱い父だったこともあって、父自身を含め家族全員

昨日食べすぎたのかな、と思っていたことだろう


その後私は仕事に行った。


だが数時間後、会社の電話と私の携帯が鳴る


私の携帯には母から

会社には隣の家のお姉さんから(幼なじみの祖母の家)


母からは「お父さんと今から救急車で病院に行くから」


お姉さんからは「家の前に救急車来てるけど大丈夫?」


急いで家に帰った。


救急車はまだ家の前に止まっていて、暫くしてから病院へ走っていった。


家にいた祖母に聞くと

「お父さんトイレに篭ってたんだけど、右腕が冷たくなってきた。あたった(くも膜下出血)かもしれないから救急車呼んでくれ」って言ったのだと

(母は呂律がちゃんとまわっていたことから、くも膜下では無い、と思ったらしい)


それからしばらくして、母から電話が鳴り

大きな病院で手術するから、今からその病院へ向かうとのこと


小さな田舎町であったこともあり

大きな病院に行くまで最低でも車で2時間はかかる。

ドクターヘリのほうが速く着くので、飛ばして行こうとしたらしいのだが、吹雪いていて飛べなかったらしい。



午後1時。

母から再び電話がなり、「今病院に着いたんだけど、お父さん心肺停止で運ばれたの」と言われた。


道中、血管が破れ出血死した。


病院に着くまでの間に心肺蘇生をしてくれた先生と看護師さんには感謝しかない。

看護師さんは車酔いで大変だったと聞いた


その後のことはあんまり覚えていない。

父と母が帰ってくるまで布団を敷いたり色々準備をして、

雪が積もっていた玄関を幼なじみとお姉さんが雪かきしてくれて

笑顔で「ごめんね、ありがとう」って言ったのは覚えている。

突然の事で脳が追いついていなかったのか、泣いちゃダメだって思ってたのかそれはわからない


夕方、父の遺体と母が家に帰ってきた。


人間、こんなにあっさり逝くんだなってこの時初めて思った。



父のことを思い出しても涙はでない

でも、この日のことを思い出すと涙がとまらない。

どうにかなってしまいそう。


だから、思い出さないよう、思い出してしまわないよう

職場でも家でも明るく振舞った。


職場では先輩(かなり年配)に「平気なの?大丈夫?私父亡くなった時しばらく立ち直れなかったんだわ」と言われた


多分、平気では無かったと思うが

その日のことを閉ざしてしまっていたので平気だった。



後日、父の部屋を掃除していてわかったことがあった。

畳の部屋なのだが、畳の上にカーペットを敷いていた


ストーブの灯油がどこからか漏れていて

畳1枚湿っていたのだ。


父はストーブの前でタバコを吸う人だった。


母が

「1歩間違えてたら、

もしかしたら家が火事になっていた可能性もある。全焼したかもしれないし

みんな死んだかもしれない、これでよかったのかもしれない」と言った。


私も母も、父が大好きだった。


なるべく、家族にとっていい方向に捉えよう

そんな思いだったと思う。



父が亡くなって

多分、5年くらい経ってると思う

多分、と言ったのは覚えてないから。

あの日のことを思い出したくないから

脳がシャットダウンしたんだろう。

日にちは覚えている。


あともう1つすごいなあって思ったことがある

人間、涙って枯れるんだなって。

本当に一滴もでないの、すごいなって。


まだまだ思い出すこと言いたいこと色々あるけど

うち、家族仲は良かったけどちょっと貧乏すぎたから

生まれ変わったら裕福な家だといいね、って

切に願っています。


母の良き夫でいてくれてありがとう。

私の父でいてくれてありがとう。


2021年8月30日

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父の話をしよう。 @tatoekonosoragakowareyoutomo

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