3-18. 天地を焦がす子供

 ルイーズは暗黒龍のウロコを出し、ヴィクトルに返す。

「これは凄い役に立ったよ。さすがヴィクトル」

「迫力が圧倒的だからね」

 ヴィクトルはニヤッと笑った。


 ギュアァ!

 暗黒龍がドヤ顔っぽいしぐさで重低音を発する。

「本当にありがとうございました」

 ルイーズは暗黒龍に深々と頭を下げた。

 暗黒龍はうれしそうにゆっくりとうなずく。


 ヴィクトルは満足げに微笑み、大きく息をついた。

 そして、胸に手を当て、ルイーズに向かってひざまずいた。

「さぁ領主様、ご命令を!」


 兵士も騎士も静かになり、みんなが二人をじっと見つめる……。

 ルイーズはそんな様子を見回すと、背筋をピンと張って魔物の群れを指さし、やや緊張した声で命じる。

「ヴィクトルよ、魔物を一掃するのだ!」


「かしこまりました。領主様!」

 ヴィクトルはそう言って一歩下がり、顔をあげた。

 二人はじっと見つめ合い、そしてニコッと笑い合う。


 ヴィクトルはローブの袖をバッとはためかせながら振り返り、暗黒龍を見て言った。

「ルコア! 出撃だ! シールドは任せた!」

 ゆっくりとうなずく暗黒龍。


 ヴィクトルはニヤッと笑うとタンっと跳び上がり、そのままツーっと上空に飛んでいった。

 パタパタと風に揺れる青いローブをそっと押さえ、これから始まる激闘の予感にブルっと武者震いをするヴィクトル。


 ルコアも飛び上がり、天に向かって ギュウォォォォ! と叫ぶ。その恐ろしいまでの重低音の咆哮ほうこうは辺り一帯に恐怖を巻き起こし、襲いかかってくる魔物たちですら足を止める程だった。


 直後、オーロラのような金色の光のカーテンが天から降りてきて街の外周を覆った。

「うわぁ~!」「すごいぞ!」

 歓声が上がる。

 その光のシールドはキラキラと光の粒子をまき散らし、厳粛なる神の御業のように見えた。


 ヴィクトルは押し寄せる津波のような魔物たちを睥睨へいげいすると、フンッ! と全身に気合を込め魔力を絞り出した。ヴィクトルのMPは二十万を超え、魔術師千人分の規模を誇る。その圧倒的魔力が青いローブ姿の子供の全身を覆い、激しい輝きを放つ。

 ヴィクトルは両手を大きく広げると魔法の術式のイメージを固め、緑色の精緻で巨大な魔法陣をババババッっと数百個一気に展開した。


 見たこともない複雑で巨大な魔法陣が一気に多量に出現し、見ていた兵士たちはどよめく。


 ヴィクトルはさらに魔法陣に通常以上の魔力を注ぎ込み、オーバーチャージしていった。魔法陣たちはギュイィィ――――ンと響きはじめ、パリパリと細かいスパークをはじけさせる。あまりの魔力の集積に周囲の風景は歪み始め、一触即発の緊張感で皆、息をのんだ。


 さらにヴィクトルはその魔法陣群の手前に今度は真紅の魔法陣を同様に数百個展開させる。


 緑に輝く魔法陣群と真紅に輝く魔法陣群は、お互い共鳴しながらグォングォンと低周波を周りに放った。


 巨大なエネルギーの塊と化した緑と赤の巨大な魔法陣群、そのただ事ではない威容に、見ている者の目には恐怖の色が浮かぶ。


 ヴィクトルは最後に緑の魔法陣群の角度を微妙に調節すると、城壁の上の兵士たちを振り返り、

「総員、衝撃に備えよ!」

 と、叫んだ。兵士たちはこれから起こるであろう恐ろしい猛撃に怯え、みんな頭を抱えうずくまった。


 ヴィクトルは麦畑を覆いつくす十万匹の魔物たちを指さし、


爆裂竜巻グレートトルネード!」

 と、叫んだ。

 緑色の魔法陣は一斉にはじけ飛び、強烈な嵐を巻き起こし、一気に魔物たちを襲う。

 それは直径数キロはあろうかと言う巨大な竜巻となり、魔物たちを一気に掃除機のように吸い上げていった。

 大地を覆っていた十万匹もの魔物は、超巨大竜巻の暴威に逆らうことができず、あっという間に吸い集められ、宙を舞う魔物の塊と化した。


 それを確認したヴィクトルは、

絶対爆炎ファイヤーエクスプロージョン!」

 と、叫ぶ。

 真紅の魔法陣は一気にはじけ飛び、次々と激しいエネルギー弾が吹っ飛んで行った。

 直後、天と地は激烈な閃光に覆われ、麦畑は一斉に炎上、池も川も一瞬で蒸発していく。

 白い繭のような衝撃波が音速で広がり、小屋や樹木は木っ端みじんに吹き飛ばされ、金色のカーテンにぶつかるとズーン! という激しい衝撃音をたててカーテンがビリビリと揺れた。

 その後に巻き起こる真紅のキノコ雲。それはダンジョンで見た時よりもはるかに大きく、成層圏を超えて灼熱のエネルギーを振りまいていった……。


 ルイーズたちも兵士たちも、そのけた外れの破壊力に圧倒され、見てはならないものを見てしまったかのように押し黙り、真っ青になった。そして、はるか高く巻き上がっていくキノコ雲をただ、呆然と見つめていた。

 あの可愛い金髪の子供が放ったエネルギーは、街どころかこの国全体を火の海にできる規模なのだ。今は味方だからいいが、これは深刻な人類の脅威になりかねないと誰もが感じ、冷や汗を流していた。

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