3-19. 妲己襲来
十万匹の魔物は消し飛んだはずである。しかし、ヴィクトルの表情は険しかった。
ヴィクトルはMP回復ポーションをクッとあおり。キノコ雲の中の一点を凝視していた。
ヴィクトルは何かを感じると、急いで金色のシールドの魔法陣をバババッと多重展開する。直後、キノコ雲の中から飛んできたまぶしく光輝く槍『
ズーン!
城壁が大爆発を起こし、大穴が開く。
渾身の多重シールドがあっさりと突破されたことに、ヴィクトルは冷や汗がジワリと湧いた。やはりレベル350オーバーはなめてはならない。伝説にうたわれた全てを貫く奇跡の槍、『
「ルコア! 妲己が来たぞ!」
ヴィクトルが魔法陣を次々と展開しながら叫ぶ。
ギュアァァァ!
暗黒龍は咆哮をあげると、巨大な金色のシールドの魔法陣を次々と展開して妲己の猛攻に備えた。
ルイーズは新たな敵の出現に驚愕する。
「だ、妲己だって!? 伝説の妖魔じゃないか! なぜそんな奴が……」
「に、逃げましょう」
宰相はルイーズの手を取り、そう言ったが、ルイーズは首を振り、
「弟が我が街を守ってくれてるのです。見守ります!」
そう言って、青いローブを風に揺らす小さな子供を見上げた。
兵士たちも逃げることもなく、暗黒龍を従える人類最強の子供と、伝説の妖魔の戦いを
「
ヴィクトルは、そう叫ぶとキノコ雲に向けて無数の風の刃を放った。ブーメランのような淡く緑色に光る風の刃は、まるで鳥の大群のように群れを成して
すると何かがキノコ雲の中から飛び出し、風の刃を次々と弾き飛ばしながら高速で迫ってくる。
ヴィクトルは真紅の魔法陣をバババッと無数展開すると、
「
と、叫んで一斉に鮮烈に輝く炎の槍を放った。
激しい輝きを放ちながら、炎の槍の群れが一斉に敵に向かってすっ飛んでいく。
しかし相手は金色の防御魔法陣を無数展開しながら構わずに突っ込んでくる。
そして、手元には閃光を放つエネルギーを抱え、目にも止まらぬ速さで射出する。
ヴィクトルは慌てずに銀色の魔法陣を展開し、飛んできたエネルギー弾を反射し、逆に相手へ向かって放った。
相手は急停止すると、手の甲であっさりとエネルギー弾を受け流す。
エネルギー弾は地面に着弾し、大爆発を起こした。
立ち昇るキノコ雲をバックに、相手はヴィクトルをじっと品定めするように眺め、
「小童! たった一年でよくもまぁ立派になりしや」
と、嬉しそうに叫んだ。
黄金の光をまとい、ゆっくりと宙を舞う黒髪の美しい女性、それはやはり、一年ぶりの妲己だった。赤い模様のついた白いワンピースに羽衣は、会った時と変わらず上品で優雅な雰囲気を漂わせている。
「あなたに勝つために一年地獄を見てきましたからね。しっかりとお帰り頂きますよ」
ヴィクトルはそう言って平静を装いながら、秘かに指先で何かを操作した。
「ふん! たった一年でなにができる!」
そう言うと妲己は何やら虹色に輝く複雑な魔法陣を並べ始めた。それは今まで見たことのない面妖な魔法陣。ヴィクトルは顔を引きつらせながら必死に指先を動かす……。
直後、妲己の髪飾りに空から青い光が当たる。それを確認したヴィクトルは叫んだ。
「
激しい真っ青な激光が天空から降り注ぎ、妲己を直撃する――――。
ズン!
妲己は真っ青な閃光にかき消され、同時に激しい爆発が巻き起こり、吹き飛ばされた。
地上二百キロの衛星軌道に設置された魔法陣から放たれた青色高強度レーザーは、全てを焼き尽くす爆発的エネルギーを持って妲己の頭を直撃したのだ。伝説の妖魔といえども無事ではすむまい。
「よしっ!」
ヴィクトルは確かな手ごたえを感じていた。
爆煙が晴れていくと、地面にめり込んだ妲己がブスブスと煙をあげながら黒焦げになっている様子が見える。
「やったか……?」
ヴィクトルは恐る恐る近づいて行く……。
ボン!
いきなり妲己が爆発し、爆煙が巻き上がる。
何が起こったのか呆然とするヴィクトルの前に、爆煙を突き破って巨大な白蛇が現れた。なんと、第二形態を持っていたのだ。
「よくもよくも!」
白蛇は鎌首をもたげ、ギョロリとした真っ赤な瞳でヴィクトルを凝視すると、巨大な口をパカッと開け、ブシャー! と、紫色の液体を吹きかけた。
ヴィクトルはあわててシールドで防御する。しかし、液体は霧状になり、ヴィクトルの視界を奪った。
その間に白蛇は真紅の魔法陣を次々と展開していく。
ヴィクトルは視界を奪われた中でその動きを察知した。チマチマとしたやりあいではらちが明かないと感じたヴィクトルは、イチかバチか間合いを詰める魔法『縮地』で瞬時に白蛇の目前まで跳んだ。
目の前には真紅に輝くたくさんの魔法陣、そして真っ白な大蛇……。
ヴィクトルはすかさず、巨大な銀色の反射魔法陣を展開した。
同時に放たれる白蛇の
果たして白蛇渾身の火魔法は、発射と同時に跳ね返され白蛇自身に着弾した。
ぐわぁぁぁ!
強烈な閃光、そして爆発のエネルギーが解放される中で、妲己は断末魔の叫びを上げながら自らの炎で焼かれていったのだった。
ヴィクトルは焼かれて消えていく妲己の魔力を感じながら、この一年の辛かった地獄の修業を思い出していた。何度も何度も殺されて、殺される度に妲己を倒す一念で立ち上がっていたあのダンジョンの日々……。そう、この瞬間のために耐えてきたのだった。
ヴィクトルは静かにこぶしを握り、唇を真一文字に結ぶとグッとガッツポーズをする。
ステータスは圧倒的にヴィクトルの方が上だったが、レベルは妲己の方が上であり、思ったより危なかった。さすが伝説の妖魔である。
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