第8話 株式会社異世界。業務内容告知 episode5 真面目に誰か教えてくれないか! この会社は本当に大丈夫なのか?

で、三百年て。

まじめに三百年、つまりは三百歳と言う事なのか? えれぇ―ババァだったんだ実は。


ちらりと向けられた王女の視線が熱い。


「政孝よ、今、お前……われのことをババァだと思ったじゃろ!」

げっ! なんだ俺の考えていること筒抜けなのか?


「そ、そんなこと滅相もない」

「良い良い、よいのじゃ。正確に今は三百二十六歳じゃ、そなたの十倍は時を過ごしている。それにじゃ、うぬと出会ったあの日はちょうどわれの三百歳の誕生日であった。運命を感じておる」


はぁ、俺と同じくれぇにしかあの時は見えなかったと思うんだけど、(今もほとんど変わらねぇけど)実は三百歳とは恐れ入った。


「ところで政孝よ。うぬは、われの加護を受けたことを後悔しておるのか?」

そう聞かれると正直。


「後悔? と言うより、いまだにこの会社のことがわからねぇ。そして、なぜそっちの世界の野獣がこの世界にまで現れなきゃいけねんだ。それに俺は一度食われている。あんな野獣が町中をうろついているなんて言うのは今まで聞いたことがねぇんだ。見たこともねぇ……(実際は見えたんだけど)」


王女は「はぁ―」と深いため息を漏らし「ならどこから話したらよかろうかの」と漏らすように切り出す。


「今から話すのはわが世界に伝わる昔話じゃ」


今からおよそ数千年前。神々が世界を統一していた時代。

王女達が暮らす世界は緑と可憐な花々たちに守られ、その大地の大いなる加護を受け人々は暮らしていた。

とにかく平和であり、異なる種族との争いも起きず平穏な日々をすごしていたらしい。



恋は盲目。それは人でなかれ、たとえ神であろうとも同じであった。

一つの恋がこの世界を破滅へと導き、新たなる世界を導いた。

その世界は次第に揺らぎ始めた。

大いなる大地と空の加護の均等が崩れ始めたのだ。


大地神の一人である女神テルースは天空神ウーラノスと恋に落ちた。この恋は禁断の恋、決して許されるものではなかった。

そしてこの二神の間にアフロディテが生まれた。


神々は激怒し、生まれて間もないアフロディテを時の闇へと追放した。

最愛のわがから引き離されたテルースとウーラノスは時の闇の狭間で懸命に生きるアフロディテへ出来る限りの力を注ぎ、生きながらえることができるよう新たな世界を生み出した。

新たに誕生した世界。それは二神の愛情の世界であった。


大地神の力を持つテルースと天空の王と崇められるウーラノス。空と大地は不滅の夫婦であるがゆえに結ばれた。これは自然の摂理であったのだ。のちに神々は己の残虐さに反の意を唱え、二神の神を再度迎え入れようとしたがすでに、二神の力は尽きこの世界から消え失せようとしていた。


時は万事に徹する。


大地と空は引き離され。この世界は滅亡へと向かう。

一度は滅びかけたこの世界。


この滅びかけた世界を救ったのが、豊穣ほうじょうの神アフロディテであった。

アフロディテは己のいた世界とこの滅びかけた世界を融合させ地母神となり、自らを精霊浄化させてこの世界に加護を与えたのだ。

神々の時代は終わりをつげ、この世界は新たな芽吹きを得た。


されど、アフロディテも想像しえなかったことが偶然に起きた。穴の開いた空間は歪み、その歪みの穴に別な世界が引き寄せられた。


「それが政孝おぬしらが生存する世界なのじゃ。つまりはわれらの世界とおぬしらの世界は母と子の位置になるのじゃな」

「古くから語り継がれてきた神話ですね。王女」


「そうじゃの」


「じゃぁ、俺らのいる世界とそっちの世界は自由に行き来ができるということなのか?」

「そうじゃ。基本的にはそうなのだが、その昔はかなりの渡来があったのは事実じゃ。しかし、うぬらの世界は加護により保護されておる。つまりは今はわれらの世界のことは一部の者にしかリークされておらんのじゃ。ま、それは王室の行政にも関わることじゃから簡単には話すのは無理じゃな」


「そうか、で、この会社の目的と言うか本当の業務って言うのは何なんだ?」

いよいよ俺が知りたいことに触れねぇとな。このままだと疑問符だらけだ。まだ全部を信じているわけじゃねぇから。ほんともしかしたらマジ! やば系の奴らが出てくるんじゃねぇかと少し怖ぇんだけど。


「まだ感づいてはおらぬのか?」


「感づいてって?」


「まったくのぉ―、以外と疎い奴だわ。簡単に言うとじゃな。この会社はこの世界の監視役じゃ」


「監視役?」

「そうじゃ、色々とルールを守らんやからが横行して。それを取り締まるのが目的なのじゃ」

「例えばどんなことなんだ?」


「最近多いのは野獣の密輸。うぬは食われたじゃろ、あの野獣も密輸されたんじゃ」

「ああ、あの時は私がおとりになって引き寄せたやつね。最も野獣よりもあなたを捕まえるのが本当の目的だったんだけど。食べられちゃって、災難だったわね」


「フン、あのまま消化させればよかったのに」葵がぼっそりと言う。


思い出したくもねぇが思い出してしまう。「んっ! 俺を捕まえるって言うのは?」

「だって確保しようとしたら、八神君突然マンションからいなくなっちゃうんだもん。焦ったわよ!」


「確保? とは……」

「確保は確保よ。あなたははじめっからここに来る予定だったの」


「な、なんだそれって」

「なんだとはなんじゃ!! ようやくうぬを見つけ出し確保できるよう手はずを整えたというのに。また疾走するとは本当に手を妬かせる奴じゃのぉ」

手はずって言うのは――――なんだ!


あ、怪しい……これはあやしい。

王女はにカット笑い、俺に投げかけるように言う。


「円満退社できただろうに」


「はぁ――! 円満退社? どこが!!」


「だから円満退社じゃ。会社からは用済み扱いされたのじゃろ。だったら円満退社ではないか。まっ、ちぃ―とばかりやりすぎたのかもしれんがのぉ――。はははははは」

「ちょっと待て――――て、言うことはあの事件を俺にすべて擦り付けるように仕組んだとでもいうのか?」


「そうじゃが何か問題もあったか?」


うっ……わぁ――――!! マジですかぁ!! なんでそんなことすんだよぉ―!!!

おかげで俺は会社からはもちろん、社会的にも抹殺されちまったじゃねぇ―か。

もうこれじゃ異世界転生するしかねぇだろ。マジに。


でも俺、今のこの状態って半分くらいは異世界転生してんのか? いや、転生はしていねぇけど。異世界の入口までは来ているのは確かだ。実際。

でもよぉ――。なんか無性に腹が立ってきた。


「なんでそんなことすんだ。おかげで俺の人生も終わちまったじゃねぇか!!」

「良いではないか。あんな中途半端な人生を送るよりはこれからの新たな人生に向けてワン・ツーステップアップじゃ。それに政孝とは契りあった仲ではないか」


「……契りあった仲ってさぁ――」

「あ、葵さん……なんかお怒りのようですけど、外見はこの通りなんですよね。でも実際三百歳越えなんですよ! ――――この方」


「わ、分かっているわよ! ――でも」

顔ではニタァーと笑っているが、両手はプルプルと怒りをおし殺しているのが良くわかる。

プッツンする前に話題を変えねぇと。矛先は常に俺に向いているんだよな。


「ま、もう済んだことだ」て、そんな簡単に収めていいようなことじゃねぇんだけど実際な。ここはいったん引くべきだろう。

「でもなんだ、あの時俺とそんな契約って言うのか? 与えてもよかったのかよ加護って言うのを。俺はあの時まだ幼すぎて良く理解はできていねぇと思うんだけど。そっちはそれなりの覚悟があっての事なんだろ」


「確かにその通りじゃ。われはその代償は全て受け止める覚悟はあるぞ。でなければわれの加護を与えはせん。それにうぬは半分はこちら側の世界の血が流れておるのじゃからの」



半分って――――どういうことだ!

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