第4話 株式会社異世界。業務内容告知 episode1 業務転換!! それは男をやめろと言うことですか?

「八神君。お茶飲みたいなぁ」

「はい、ただいまお淹れいたします」


湯を沸かし、カップをその湯で温め茶葉をティーポットにきっちりと計量スプーンで測り入れ。沸騰したお湯を落ち着かせてからゆっくりとポットに注ぎ入れる。

う――ん我ながら紅茶の入れ方もかなり上達したものだ。


それにしてもこれは社長の趣味みなのか? 紅茶の茶葉の種類は常時十種類ほどキープされているようだ。

しかも素人の俺が見ても分かるほどの、上質茶葉だ。

まずは一般人であろうものなら、到底入手することすら困難な代物と言えるものであろう。


「ん、美味しい」

「ありがとうございます」


「ところで八神君。今日の予定は?」

「予定ですか?」


「そう予定」


「……ないです。真っ白です」


「あらあら、そうなの今日もなぁーにもないの?」

「はい、ありません」

「ふぅ―」とアリン社長はため息をつく。


「ところでアリン社長」

「はい何ですか?」


「あの、正直申しまして……まことに言いにくいんですが。このままでは今月も赤字確定です」

「あら、もうそうなの? だってまだ今月半分しかたっていないんだけど」


そうなのだ。俺がここに来て早、半月がたとうとしていた。

その間この会社の経営状態を調べたが、赤字どころじゃない。

会社としての収支の機能が全く成り立っていない。


つまりは収入が壊滅的に……限りなく”ゼロ”……いや。正直に言おう。

この半月いや、過去に至っても営業収入はゼロだ。

倒産の危機どころじゃない。すでにこの会社は倒産しているんじゃないか?


会社設立からおよそ一年。ま、設立当初は赤字決済になるのは致し方ないとして。資本金百万はとうに使い切っている。

むろんこんな状態ではこの先も、収支は赤字決定事項として確定しているようなものだ。


何せ、ほとんど……まったくと言っていいほど仕事が来ないんだ。

それでもこの社長はこの通り。

のほほんと、紅茶を飲みながら、ポケッと空を眺めている。

ほとんど毎日この状態だ。


で、この株式会社異世界の業務内容だが。表向きは『イベント企画』と言うことになっている。

しかし、そのイベントの企画案もそれを売るクライアント先も存在しない。

それでもデンと株式会社として、看板を掲げている。


社長はポケらと空を眺め。俺は雑務と家事に追われる日々。

何かが違う。

俺はまともな仕事がしたい。でなければ俺の給料はどこからも捻出されない。


危機感が早くも俺を駆り立てる。

「あの、アリン社長。新入社員の俺からこんなこと言っては失礼ですけど、業務転換されてはどうですか?」


「業務転換?」

「そうです業務転換です。今のイベント企画業は無理なようですので、ここは新規に新たな仕事を開拓しましょう」


アリン社長はう――んと考え込むようにしながら、空を見つめ。

「あっ! 雨が降る」

「へっ? 雨ですか?」

「うん、雨降ってくるよ」


いやいやそれは無いでしょこんなにもピィーカンの晴天で、しかも今日の予報では一日中晴天予報だ。

「嘘でしょ」

「ううん降ってくるよ、それも土砂降り。雷も鳴っちゃうねこれは。洗濯物取り込んでおいた方がいいよ」

信じがたいが真顔で言うところは自信があるのか?


「あと三十分もないかなぁ」

朝一に洗濯したものだ。もう乾いていてもいい時間だから、俺は屋上に向かい洗濯もを取り込もうとした。


その時すぅーと、冷たい風が吹き始めてきた。

ふと見上げる空のはるか向こうに黒い雲が見えた。

「マジ! これってやっぱ降ってくるんじゃねぇ」


急いで洗濯もを取り込んだ。で、取り込みながら、ある区画のハンガーに目を向ける。

三人の下着群エリアだ。


「いい、八神さんはこのエリアに入ることそして覗く事。もちろん取ったりするのはご法度です。わかりました?」と、葵から念を押されているエリアだ。


し、しかし今は緊急事態。

このまま放置していれば、あの下着たちは濡れ……汚れちまう。


うぅーん。こういう場合はいいよな。仕方がないよな。

そう自分にいい訳をさせながら、禁断のエリアへ突入する。

ハンガーにひらひらと風に舞う、色とりどりのパンツ。


ごくりとつばを飲み込み。恐る恐るパンツをつかみ取る。

いったい俺は何緊張しているんだ。思春期の童貞小僧でもあるまいし。

その時ふと俺の脳裏に浮かび上がる過去の思いで。


そう言えば俺、彼奴の下着姿って記憶にねぇな。その中の姿なら覚えているんだけど。

思い起さなくてもいいことを思い出してしまった感じがする。


突如と言うか、解雇通知を受けてすぐに彼女との連絡はつかなくなった。

普通なら、心配して連絡くらいよこしてくれてもいいと思うんだが。

ぷっつりと糸が切れたように連絡もつかなければ、彼女の姿も俺は見つけ出すことも出来なかった。最もあの状態ではどうにもならなかったけどな。


今も俺は孤立状態だ。

スマホは破壊し、俺個人への連絡の手段はなくなった。


しかも、マンションを抜け出してから、住所不定。ま、住所と言えばあの橋の下だろう。

そして今はここ。この会社のビルの一室に間借りさせてもらっている。


住むところもなく、金もない。


最も社長は俺をここに住まわせるつもりでいたようだが。ただ葵は猛反対していたな。

男と一緒に暮すなんて嫌だと。男が嫌なのか? それとも俺自身が嫌いなのかは定かではないが、今もまだ警戒心は強い。


ま、あの年頃の子はそう言うもんかもしれねぇし、根は悪い子じゃないことはこの半月で理解している。

純情なんだよきっと。

それに引き替え、茉奈はなんだ興味と言うものが先行しているのか? それともあれが素なのか?

外見と中身は違う。


あの子はエッチなことに興味津々だ。


そう言えば俺が半死状態でここに担ぎ込まれたとき、葵と茉奈がなんだ彼奴らの特殊能力なんだろうな。俺を蘇生してくれたって聞いた。

その時に茉奈は「八神のお兄さん(おじさんはいささかあの子から言われると気が重くなるから、お兄さんと呼びなさいと教育した。俺はロリであったことを自覚した)私の初めて捧げたんだけど覚えていないよね」


うぅ――ん。覚えていないよね。て言われても半死状態でどうやって感じろって言うんだ。何の感覚もねぇんだけど。


「ほらちゃんとその証拠もあるんだよ!」

と見せられたのが……魚拓ならず処女拓? あれは血だろうか衣魚しみと共に紙に押し付けられ取られた部分拓。ご丁寧に『茉奈』と朱印まで押されていた。


「ちょっ、ちょっと待て。俺は知らんぞ! これは俺がしたことじゃねぇ。これ以上俺を犯罪者に仕立て上げないでくれ!!」

マジ、これは本当だったら俺は間違いなく犯罪者だ。中学三年のいたいけない少女に対していけないことをしたと言う事だ。


「あら、茉奈ちゃん女になったのね。おめでとう! 早速ご両親に連絡しないとね」

「そうだね。ママたち喜んでくれるかなぁ―!」

「さぁどうでしょ。お二人とも厳格な方たちですからね。八神さんご覚悟された方がよろしいかと……」


うううううっ。と、社長はハンカチで目頭を押さえ

「あのう、俺どうなちゃうんですか?」


「……そ、そうねぇ――――チョッキン! されちゃうかも」


「チョッキンって? もしかして」

「うんうん、そのもしかして」にっこりと今度は微笑んで言う。


サデスティックだ! 寒気と共に一瞬にして萎えた。

後から茉奈から「嘘だよ!」と言われたときはほっとした。俺は宦官かんがんにならずに済んだ。


パンツを取り込みながら、そんなことを思い出している俺は、なんだこの生活をするようになってから、性癖が変わってきたのか。……だとしても今は、この生活が楽しいといえば嘘にならない。


最後のパンツをハンガーから取ろうとした時、突如風が舞い上がった。


かごに入れてある一枚のパンツが風に拾われ、宙に舞う。

白の両サイドに青の薔薇の刺繍が施されているパンティ。


「あ、やべ!」

そう声を発した時にはすでに遅く、パンティはひらひらとビルの外に落下していった。


あれは葵の……なぜ、葵のだと思ったのかは分からないが、そう思えたのは事実。


そして空からは大粒の雨が落ち始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る