入学早々イメチェンバレ?
「あっ、ありがとうございます!」
男を組み伏せて、たまたま持っていた麻縄を使い縛っておいたら助けた女の子が話しかけてきた。
「なんで…縄を持っているのですか?」
「…たまたまだよ」
彼女の疑問は至極真っ当だ。
コンビニで珍しく麻縄なんてものが置いてあったからつい買っちゃったんだよな…無駄な買い物だと思ってたが、まさかこんなことに使えるなんて思いもしなかった。
店員さんが不審者を見るような目をしていたから、魅力パラメータを隠した俺の擬態が上手くいってると割り切ってしまったし。
そ、そうなんですか…と少ししこりの残る納得をされたところで彼女を改めて見てみる。
同じ高校の制服を着ていてエンブレムから同じ学年だと推察する。体格はスレンダーで小柄。癖一つないストレートの銀髪を足の関節辺りまで伸ばしている。俺に向けているその碧眼は美しく宝石のように煌めいている。
(あっ可愛っ…)
この感情はなんだろう。
ただ単純に可愛らしい人を見た時に感じる感情ではない。
…そうだ。これは神を、美女神を見た時よりも強く感じる『尊さ』なのだ。
彼女をみると際限なく溢れてくるこの感情を一度封じ込める。そうでもしないと語彙が喪失したまま彼女とはなすことになってしまうからだ。
そして気づいた。俺は彼女に一目惚れをしてしまったのだ。
でもこの一目惚れは、違う。
付き合いたいとかじゃなくて、結婚したいとかでもなくて、…敢えて使うなら「見届けたい」。この一言に終始一貫されるだろう。
これが俺の理想を叶えてしまう少女との初めての出会いだった。
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そんな邂逅が終わると駅のホームに着いたようでドアが開きそれと同時に痴漢ヤロウを縛りながら彼女と共にでる。
駅員さんに痴漢ヤロウを突き出して俺らに事情聴取が始まる。
…はぁ、初日から遅刻かあ…
げんなりした気持ちを心の中で嘆きながら、人助けの達成感と憂鬱さの複雑な絡まりの中をおくびに出すことはなかった。
それから2時間ほど、この場に拘束されることになってさらにため息が止まらない。
痴漢ヤロウが騒ぎ立てて能力を乱用し暴れ出したからだ。
そこを俺が押さえつけてそのまま警察を待つ事態となったのだった。
…時刻は9時半ほど。
事情は説明されているだろうけど、かなり好奇の視線が集まることだろう。そんなことにげんなりとしていたら、
「あ、あの!すみません!」
今まで存在消していたのか…と言わんばかりの隠密能力でも持っているのかその声さえなければ彼女に気づくことはなかった。
ちなみにびっくりしすぎて今心臓がすごく激しく動いている。
「お名前を…聞いてもよろしいでしょうか?」
そういえば彼女にまだ言ってなかったな。
「俺は宵咲智也だ。そちらは?」
「私は宵宮奏です。名字が似てますね」
そう言ってクスッと笑っている姿は本当に可愛い。
「…可愛いな…」
「ふぇっ?」
小声でつい出てしまったが本当に可愛らしいのだ。…語彙が喪失したぞ今。
それが運悪く聞こえてしまったのか耳まで真っ赤にさせて顔から蒸気が出てしまいそうなほど熱くなっている。
「あ!すまん!つい出てしまって!」
「い、いえ、大丈夫ですよ。…あまり言われ慣れてないだけですので…」
そう言って恥じらう姿は(ry
今の俺らの距離はキテ◯ちゃんの身長よりりんご2個分短い距離で…とまどろっこしい言い方をしているがつまり拳一個分程のあいだだけ開けて横並びで歩いている状態だ。
俺の風貌は先ほどまでのオールバック中学生スタイルはやめて妹と作り出した陰キャ丸出しの姿だ。
俺の豹変ぶりにかなり驚いていたが、それでも感謝の気持ちは消えていないらしく本当に可愛(ry
そうこうしているうちに目的の霊峰学園につく。
少し前にも言ったがこの学校は超名門である。
この学園の凄さはもう少ししたら分かることだろう。
誰もいない掲示板に向かい、クラス表を確認する。
10クラスに別れており、その中で俺は1ーJ組に属することになった。
その中で知っている名前…というか勇雅を探してみると…
居た。同じクラスに入ることができた。
でもあいつは俺の豹変を知らないだろうからな…きっと驚くことだろう。
「宵咲くんはどのクラスでしたか?」
控えめにそう聞いてくる宵宮さんはとても小動物のようで庇護欲が掻き立てられる。
「Jだったよ」
「あっ!私と同じです!」
「おっ、ほんとだ。これからよろしくな。宵宮さん」
「あ、あの…私たち名字が似ているじゃないですか…?」
急な質問に驚きはしたが、
「確かにそうだな」
すぐに肯定を述べる。
「で、ですので互いに下の名前で、私のことは奏と呼んでもらってもいいでしょうか…?」
なんだこの可愛い生物は。
「わ、わかった。俺のことも智也と呼んでくれ」
「わ、分かりました。これからよろしくお願いします、と、智也さん…」
「こちらからも改めて、よ、よろしくな。か、奏さん…」
「呼び捨てで構いませんよ」
「…わかった。奏」
「はぅ…」
互いに顔を真っ赤にしながら熱が冷めるのを待つ前に逃げるようにクラスに早足で向かうのだった。
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