僕の彼女
僕には彼女がいる。今が大学三年生なので付き合いだして二年目、大学一年生の冬に交際が始まった。彼女の名前は
日菜子とは大学の選択制の講義で偶然同じものを選択しており、何度も色々な教室で顔を合わせている内にお互いが認識し合うようになっていった。
初めはなんとなく視線が合うといった事から始まり、それがしばらくすると、どちらともなく会釈をし始めた。その頃になると僕は日菜子の存在を特別な意識をしだしていた。教室で日菜子がいないと、なんとなく探してしまう自分がいた。
最初に言葉を交わしたのも大学の講義での事で、その日の講義は試験前という事もあり混雑していた。遅れて教室にたどり着いた時には席は埋まっており、数少ない空いている席を目で追っていくとある空席の横には日菜子がいた。僕は迷わずその席へ足を向けた。ドキドキしていた。僕にとってはかなり大胆な行動だった。隣に座る際軽い会釈をして着席し「どうも」と言葉を発すると「あっ」と日菜子の声が微かに聞こえて来た。
これをきっかけに徐々に会話をしていくようになるが、初めの内は社交辞令的な会話しか出来なかった。女性と親しくする機会がさほどない僕は何を話したら良いのかよく分からなかった。日菜子の方もあえて会話を広げていこうという感じはあまりなかった。
しかし、ある講義でのグループワークで僕たちの関係性は動き出した。グループワークではあるテーマによって話し合いを進め、最終的にグループとしての答えを一つにまとめるといったもので自己主張の苦手な僕はあまり好きな講義ではなかった。そこでたまたま僕と日菜子は同じグループだったのだ。
テーマは『人にとって一番大切な感情とは?』といったもので、グループ内で様々な意見が交わされたが、僕の意見は案の定みんなの共感をあまり得る事が出来なかった。意気消沈のまま講義は終わり教室を出た所へ日菜子が僕に話しかけて来た。
「
「あぁ、
「……。私あの場では言えなかったんだけど、実は結構共感出来る事が多かったんだよね。みんなは否定的だったけど……」
「えっ、そうなの? 共感できた? 嬉しいなぁ。あの時みんなの感覚と違いすぎてちょっと落ち込んでたんだ……」
並んで歩き、視線を僕に向けず照れ臭そうにそう言う日菜子、僕は心躍った。不意に日菜子に話しかけられた事自体嬉しかったが、講義で浮いていた僕の意見に共感してくれる人がいた事自体も嬉しかった。
「私も同じ意見で嬉しかったの……。でも講義中はみんなの目を気にして発言出来なかったけど、どうしても伝えておきたいなって思ったの」
「みんなの目を気にして? ああ分かるなぁ……。僕も周りの目が気になって強く主張するの苦手だよ」
「そうなんだ。広瀬君も苦手なんだ……。こういうのって自意識過剰なのかな? 私オシャレなカフェに一人ではいったり出来ないんだ。あんたみたいな人が来る店じゃないんだよって思われている気がしちゃって」
「わかる! 僕もそうだよ! じゃ服屋で店員さんに勧められた服って自分でちょっと違うなぁって思っても断れなかったりする?」
「あー、あるある! それで買ったはいいけど、やっぱりピンと来なくてあまり着なくなっちゃうよね! 分かるわぁ」
僕たちは並んで歩きながら、その後もあるある話出し合っていった。僕たちの考え方はお互いの共感を呼び合った。その内に話は好きなモノの事に変わっていった。いつからか僕らはお互いの顔を見ながら歩くようになっていった。
――本を読む事が好き、雲を見るのが好き、紅茶が好き、絵画が好き、ボウッとするのが好き、冬が好き、部屋の掃除が好き、夜より朝が好き、目玉焼きは醤油派、インドア派……。
同じ講義を複数選択しているだけあり興味を持つポイントが似通っていたり、考え方も共感出来る事が多かった。その為会話も無理なく盛り上がる事が多く一緒にいる時間はとても楽しい時間と感じていた。こうした時間を経てお互いの気持ちも近寄り、晴れて交際するに至ったのだった。
順調に交際を続けイベント事を一緒に過ごしていった。そうしていく内に、時間の経過と共に徐々に違和感を感じ出した。違和感と言っても決定的な物はなく一緒にいて楽しい気持ちは変わる事なく持ち続けていた。違和感とは会話のちょっとしたテンポのズレや、表情の変化など些細な事であった。
その違和感が気になっている。僕は日菜子と楽しく過ごす事が出来る様に一生懸命考えてデートプランやイベント、サプライズなどを行なって来たつもりだ。それなのにそういった違和感を感じるごとに自分に対しての自信がなくなり、本当に日菜子を楽しませてあげられているだろうかと気持ちが沈む。何がいけないのか、どうやったらそんな違和感を感じる事がなくなるのだろう。
僕なんかといて日菜子は幸せなんだろうか……。
そんな気持ちを度々頭に浮かばせながら交際を続けている。
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