第32話 脱出
1.
僕たちは暗い廊下を歩いていた。
先ほど上から落ちてきた相川璃奈が、本当に璃奈本人だったのか、外に出て確かめるために。
廊下は薄暗く、前を歩く夕貴の背中は視界の中で大きくなったり小さくなったりした。
2.
僕たちは悲鳴を上げながら廊下を走り続けた。
後ろから生ける松明となったユカリが追ってくるような気がして、とにかく先ほど開いていることを確認した、裏庭に面した1階の一番奥の窓まで走り続けた。
廊下は薄暗く、僕の少し先を走る夕貴の背中は視界の中で大きくなったり小さくなったりした。
3.
やっと一階の裏庭に面している窓にたどり着くと、窓を開ける。
外から流れ込んでくる空気を、僕は胸いっぱいに吸い込んだ。
助かった!
安堵の余り、目に涙がにじんだ。
夕貴は胸より上の辺りにある窓に取りつき、足の力も使って器用に窓の敷居の上に体をのせ、外に下りたった。
外のほうが地面が低いため、夕貴の姿は窓枠からは首から上だけが出ている格好になった。
急いで僕も窓に飛びつこうとした瞬間。
その首がくるりと振り返った。
夕貴の端整な顔は、おかしそうな笑いで歪んでいた。
彼は呆気にとられる僕の前で言った。
「悪いな。出られるのは一人だけなんだ」
夕貴は微笑んだ。
「そういう決まりなんだ」
首は笑いながらそう言うと、僕の目の前で窓をぴしゃりと閉めた。
硝子の向こう側の外で、首は大きく口を吊り上げて笑い続けた。
僕はその嗤い声を聞きながら、暗い小学校の廊下でただ立ち尽くしていた。
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