第28話 出口
羽虫が飛ぶような音が響く頭の中に、淡々とした夕貴の声が時折入りこんでくる。
あくまで可能性としてだけれど。
でも、最初にユカリが怪しいって言い出したのもシノだし。
あれは自分から疑惑を逸らしたかったんじゃないかな?
不意をついたとしても、ユカリが黒須を殺せるかな?
身体の大きさや力に差がありすぎるよ。
「だからさ」
夕貴は僕の顔を覗き込みながら言った。
「とりあえず、ここから何とか出るんだ。外に出れば、後は大人に任せておけばいい」
とにかくここから出れば、何もかも終わるんだ。
全てが正常に戻るんだ。
カウマイから出れさえすれば。
2.
僕と夕貴は、闇に支配された一階の廊下を歩き続けた。
夕貴は懐中電灯を手に持っていたが、恐らく「殺人犯」の存在を恐れてつけることはなかった。
その背中を見ながら歩いているうちに、ふと、僕の心に奇妙な感覚が生まれた。
前にこんなことがあったような気がする。
それがいつだったのか、どうしても思い出せない。
だが、そんなはずはない。
夜の学校を夕貴と二人で歩く、なんてことがあれば忘れるはずがないからだ。
普段は現れない頭の裏側の部分で記憶がざわめくような、奇妙な感覚がして僕は身震いした。
夕貴は廊下の突き当りにある、裏庭に面した窓の前で立ち止まった。
僕たちの肩くらいの高さにある窓で、大人ならばかろうじて通れるかどうか、という大きさだが、僕たちならば楽に通れる。
夕貴は、背伸びをしてその窓に手をかけた。
「この窓はさ、建付けが悪くなって鍵がかからなくなるんだ」
何気なく言った夕貴の言葉に、何か引っかかるものを感じた。
一体、それが何なのか。
考えようとした瞬間、しかし僕の頭からそんな小さな疑問は吹き飛んだ。
最初はどこかに引っかかってガタガタと鳴るだけだった窓が、夕貴が角度を調整して思いっきり力を込めた瞬間、勢いよく開いたのだ。
四角く開いた窓から流れてくる夜の風を感じた瞬間、僕は歓喜の余り叫びそうになった。
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