第二章 カウマイは宴である ~小学校五年生の記憶~

第7話 暗闇


 五年二組の教室。

 僕たちが普段授業を受けている教室は、昼間の騒がしさが嘘のように、薄暗く静かだった。

 文化会に出す掲示物を作成するスペースを作るために、机と椅子は教室の後方に下げられている。


 僕たち六人は、災害時などのときのために教室に常備してあった、ランタン型のLEDライトが放つ、淡くぼんやりとした灯りを中央に置き、教室の前方に空いたスペースに車座になって座っていた。

 辺りはひどく静かで、廊下の奥にある緑の非常灯が放つジジッという音さえ耳に届きそうだった。

 誰もひと言も話さない。


 淡いオレンジ色の光源に照らされて、暗闇の中で一人一人の顔が浮かび上がる。


 優等生の夕貴のハンサムな顔には、いつも浮かべている愛想の良さはない。何かを考え込んでいるかのように、ピクリとも動かない。


 夕貴の正面では、クラスの中で恐れられている影の支配者、黒須が苛立ったように眉間に皺を寄せ顔をしかめている。時折苛立ったように、拳を自分の膝に乱暴に打ち付けたり、床を殴りつけたりしている。


 夕貴と黒須の間には、学年の中で男子に一番人気がある相川璃奈あいかわりなが、俯いて泣き声を押し殺していた。

 人形のように可愛い顔が涙で濡れ、時折微かな音を立てて鼻をすすっている。その合間にも、明るい茶色の髪の影から、周りの人間の表情を伺うような視線を向ける。


 璃奈と夕貴の間に座っている、篠田隆しのだたかし……シノは、璃奈に体を近づけて、気がかりそうな視線を送っている。

 つい先ほどまでは、何度も「心配するなって。出られるから」と言っていたが、璃奈がまったく泣き止む様子がないので、言うことがなくなったようだ。

 今は黙って、卑屈そうな眼差しで、夕貴と黒須の様子を交互に伺っている。


 もう一方の夕貴の隣りに僕が座り、僕と黒須の間に林ユカリが座っていた。

 六人の輪から少し外側にはみ出すような場所に、膝を抱えるような姿勢で座っている。

 ランタンの淡い光の中に不鮮明に浮かび上がるユカリの横顔は、どこか歪んだ笑いのようなものが浮かんでいる。


 教室に閉じ込められて、どれくらい経ったか。


 壁にかかった時計は十時近くを指し、秒針がチ、チ、チ、と規則正しいリズムを刻んでいた。

 聞き慣れたはずのその音でさえどこかいつもと違う狂ったもののように聞こえ、時計が指す時刻も信じることが出来なくなってきている。

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