第2話 カウマイって何?
1.
カウマイ。
それは小学校五年生の当時、僕たちの学校で流行った言葉だ。
それが「何か」ということを、説明することは難しい。
「カウマイ」は何でもない。
そして、何にでもなれる。
何かあると、
それはカウマイだよね?
カウマイだよ。
カウマイだと思うよ。
カウマイだ。
と言うことが「お約束」として流行っていた。
「カウマイ」は全てを表した。
それはマズイよ。カウマイだよ。
と言われれば、それは「絶対にマズイこと」になった。
それはおかしいよ、カウマイだよ。
それはいいね、カウマイだね。
それは駄目だよ、カウマイだもの。
それは大丈夫だよ、カウマイだから。
「カウマイ」は全てを説明することが出来た。
全てを肯定することが出来た。
全てを否定することが出来た。
「カウマイ」と言えば全ての意思の疎通が、会話が成立した。
あの当時、僕たちの間で「カウマイ」は確かに存在した。
そしていつの間にか消え去った。
消え去った、と思っていた。
2.
「もし良かったらさ、ちょっと会えないかな」
電話の向こうから届く委員長の遠慮がちな声が、僕の意識を暗い記憶の泥沼から引っ張り出した。
「今は東京で一人暮らしをしているんだろう? 週末にでも会えないかな? 気になるんだ、林のことが」
僕は現実にしがみつくように、スマホを握りしめて頷いた。
「うん、まあ、いいけど」
「今週の土日とかどう? 忙しい?」
「いや、ぜんぜん。最近は土日は、いつも引きこもっているよ」
僕が答えると委員長は笑った。
僕たちは週末に会う約束をして、電話を切った。
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