避難所の秩序

 少女が寝転がって静かになったので一人で辺りの様子を伺ってみることにした。

 さっきから疑問に思っていたことが一つある。僕は一応、電車が横転してから街の中を歩いてここまでやってきた。でも道中で少女以外の生存者には出会わなかったし、周囲の建物を見ても損傷が激しく、中にいる人は死んでしまっているだろうなと思うような有り様だった。それを考えるとここにいる人数があまりにも多い気がする。今いるこの店にいたとしても穴の開いた壁付近にいれば南側の壁を突き抜けて放り出され、三階からアスファルトに真っ逆さまだろう。改札のあたりにいたとしても、きっと母さんらのようにガラスが突き刺さって死んでしまう。そういえば生存者が多い以上に店内や駅構内に死体が一つもないのも気になった。これに関しては一人で考えこんでいても仕方がないので、思い切って巡回している駅員に聞いてみることにした。

「あの、皆さんはどこから避難してきたんですか」

「ああ、ここにいる方々のほとんどは駅のホームや電車の中にいた人たちです。駅が半地下になっているので被害を免れたようで」

 駅員は興奮した様子で言った。この状況で興奮しているのは不謹慎なようにも思えるけど、大災害で「駅のお陰でたくさんの人が助かった」なんてことになれば表彰ものだ。ちょっと得意になるのも分からないではない。

 確かに地下にいれば爆風などには強い。核シェルターだって基本は地下に作られたような気がする。今の口ぶりだとやっぱり駅ビルのお店などにいた人はほとんど生存できなかったようだ。それについてもストレートに聞いてみる。

「……ちなみに、助かった人以外はどうしたんです」

「そ、それは……」

 流石に駅員も困ったような顔をした。それもそうか。わざわざ死体がどこにあるかなんて避難してきた人に言う必要はない。でも聞かれたからには答えなければ、と思ったのか周りをきょろきょろと見て誰も話しかけてこないことを確認すると耳打ちでこう教えてくれた。

「避難されている方が気分を害されないように我々スタッフが見えないところに置いておきました。……故人様には大変申し訳ないですが……」

 やっぱり人の手で死体を片付けたということか。どうやらこの避難所は駅員と店員の尽力のお陰でかなり秩序だっているようだ。あの大災害の第二波でも来ない限りはここにいて危険が生じることはなさそうでひとまず安心した。

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