東京は壊滅しました

 電車の外へ出ればとりあえずはなんとかなる――そう思っていた。あわよくば救急隊やらパトカーが既に来ていてもおかしくはないだろうと、そう思っていた。でも僕の目に飛び込んできたのはそれどころの問題ではなかった。周囲が、街が、すべてと言っていいほど壊滅していた。

 歪んだ電車の側面に立って、荒くなる呼吸を抑えつつ視界に入ってくるものを整理する。まず、電車は線路からかなり離れたところに転がっていた。何かの手違いで脱線したとかそういうレベルではないことは誰の目にも明らかだった。先頭車両は背の低いビルに突っ込んでぐちゃぐちゃになっていて、僕が乗っている車両の三つ前より向こうの車両はすべて原型を留めていなかった。どうやら、何かで吹き飛ばされた電車は横転しながらこのビルにぶつかって止まったようだ。

 そして何よりも意味が分からないのは、その突っ込んだビル自体がもはやビルの原型を留めていないことだった。元々ガラス張りだったと思われる側面は何もなくなっていて、鉄筋に一部瓦礫がこびりついているような惨たらしい状態だった。それどころか辺りを見回すと全ての建物が鉄筋だけになっているか倒壊していた。道路もアスファルトがめくれてビルや家屋の一部であろう瓦礫が散乱していて、時折風が吹くと人体に影響のありそうな建築資材がホコリのように舞い上がって空気を濁らせた。

 電車は確かもうすぐ品川に着こうとしていたはず。するとここは品川周辺ということになる。日本の中でも有数の大都会だし、東京の中でだってオフィスがひしめく重要な拠点の一つなはずだ。それがこれだけ壊滅的状況になっているとすると、電車一つ横転してるのに構っている暇はない。もっと言えば、救助の拠点すら破壊し尽くされていてもおかしくはなかった。その時ふと気付いてスマホを取り出した。予想通り、画面には「圏外」の文字。

 つまり、電車が横転したというのは単なる事故ではなく全体の中での一つの出来事で、この街全体で何かとんでもないことが起きた弾みに起こったということになるのだろう。

 ――どうしようもない。素直にそう感じた。息を整えると、これまで追い付いていなかった恐怖心がじわじわと心を侵食し、手足が音を立てて震えた。

 爆弾でも落とされたのか? あるいは自然災害なのか? それさえも分からないまま、とりあえずは線路の方へ行ってみることにした。線路沿いに歩いて行けば、いずれは駅などに辿り着ける。壊滅的な被害が出れば人は少しでも人の多いところに行こうとするはずだ。駅か、あるいは大型のショッピングモールなどに生存者が集まっているんじゃないだろうか。

 線路に出てもやはり酷い有様だった。電柱は例外なく倒れたりそもそもなくなっていたりして、線路の周りのフェンスや塀は総じて倒れ、どこから飛んできたのかひっくり返った車なんかが転がっていた。一応車の中も確認してみたけど、ピクリとも動かない血塗れの人間が乗っていたので見なかったことにした。

 線路上にも吹き飛んできた瓦礫が散乱して、中には鉄骨が剥き出しになっていて下手に触れたら怪我をしそうな巨大な瓦礫もあった。それを右へ左へ避け、完全に塞がっている時はよじ登って越え、とりあえずは一番近くの駅を目指した。

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