横転した車内
何だか夢を見ていたみたいで、目を覚ました時には自宅で朝を迎えたような気分だった。起き上がって辺りを見回しては見たものの、あまりに見慣れない光景だったものだからそれが横転した電車の中だと気付くのには少々時間がかかった。右にエアコンがついているのが見えるのでそっちが天井で、左上に座席があるから左が床、上が進行方向左側の窓か。上に見える窓は完全に一片残らず粉々に砕け散っていて、壁も内側に向かって大きく歪んで座席を変形させていた。
電車が横転したのか。一体何があったんだろう――そこまで変に冷静に、のん気に考えていたから、下を見て心臓が止まりそうになった。ふかふかの布団だと思っていたのは死体の山だった。ちょうど僕の下にさっき見かけた小太りのおじさんが横たわっていた。変に力が圧力がかかったのだろうか、おじさんのお腹は潰れていて、中のものは全て飛び出してしまっていた。横を見ればさっきパソコンを叩いていた人がうつ伏せで倒れていた。この人はこの人で、後頭部から背中にかけて大小さまざまなガラス片が突き刺さっていて、もう噴き出す血も残っていないようだった。そして、母さんも例外なくその山の中に倒れていた。母さんも体中にガラスが刺さっていて、念のため確認してみたが既に目が白くなって動かなくなっていた。
「うっ……」
――なんなんだこの状況……。悲しいとか怖いとかそれ以前にこの状況が受け入れられなかった。
自分を取り囲んでいる状況がある程度分かってくると、濃い血液の匂いで急に吐き気を催した。必死に戻さないように口を押さえる。覚醒したばかりでまだ頭がズキズキと痛むけど、このままここにいたのでは余計におかしくなってしまいそうだから、早く脱出するべくふらふらと死体の上に立ち上がった。
死体の山は車内の1/3くらい、右側の吊革が完全に見えなくなるような高さまで積み上がっている。見た感じどうやら乗客のほとんどが亡くなったみたいだ。窓の前にいればガラスの雨に晒されて死に、真ん中より右にいれば上に人間が積み重なって圧迫されて死ぬ。僕はたまたま左側のドアの横に立っていたから、多少の切り傷程度で済んだようだった。――必ずしもそれが幸運だったとは言えないと思うけど。
僕以外に車内で動いている影はない。ひ弱な僕が生きていたのだし、他に生存者が一人もいないということは流石にないだろう。もしかしたら他の生存者は既に外に出てしまったのかもしれない。後のことを考えると、急いでその人たちと合流した方がいい。死体の山の中でも特に山が高いところに登って、天井付近にある吊革を足がかりに左の座席(今は上だけど)の手すりへ登った。窓の方はガラスで怪我をしそうだから、外れかけたドアの方へ手を伸ばして腕の力でなんとか車外へ転がり出た。
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