第5章 翔くんへの告白を食い止めろ!?

全力で妨害してほしい

 時間が経つのは早いもので、もう11月。

 部室の外の木はもう紅葉の彩りを見せている。


 勉強合宿だとかいって私の家でお泊り会したのが1か月も前だよ。まあ私は初日しかいなかったんだけどさ。涼子へのセクハラでめちゃくちゃキレられてボコボコのギッタギタにされたから。顔の腫れがしばらく引かなかったし、腰が死んでたよ。

 今は涼子のほとぼりも醒めてくれたみたいで、あのときのことは何も言ってこない。彼女はいまモブ子と一緒に、私の隣でミルクココアを飲んでいる。砂糖はもちろん5杯だ。絶対早死にする。私が言えたことではないけど……。


「再試で受かりましたの」


 嬉しそうに、会長がテストの点数を見せに来た。この人が中間テストで綺麗に0点の山を築き上げてきたときはもう部活が終わったと思ったけど、再試という神システムのおかげで廃部は免れそうだ。


「これで廃部は撤回してくれますよね?」


「もちろんですの。2か月間、いろいろと世話になりましたわ」


 上機嫌にスキップしながら会長は部屋から出て行った。


「嵐みたいに来て、嵐みたいに去ってったな」


 涼子が言った。

 ホントだよ。あの人のおかげで色々あり過ぎたよ。


「まあ、とにかく。……私たちの一大イベントがついにやってくるんだよっ!」


 私は2人の前に立って、大声でそう言った。


「知ってますよー。2年生は来週から修学旅行ですからね」


 モブ子が言った。

 そうだ、そうなのだ。

 京都・奈良・大阪の4泊5日の修学旅行。まあ歴史的建造物とか全くと言っていいほど興味ないんだけどさ。夜のホテル(これは健全な意味だよ)と大阪のテーマパークが楽しみすぎて、今から遠足前夜の小学生みたいに寝不足。


「涼子とホテルの部屋も班も一緒なんだよ。2人でイチャイチャしてくるよ」


 私は涼子の腕を掴んだ。鬱陶しがられるかと思ったけど、別にそうでもなかった。なんか嬉しそうにしている気がする。この子も修学旅行を楽しみにしてるんだ。


「先輩たち友達いませんもんね」


 なんて酷いこと言うんだ君は。微妙な空気が流れる。

 私は涼子との腕を払い、咳払いをして、本題に入った。


「それでね、2年生が修学旅行に行ってる間に、1年生は林間合宿があるでしょ」


「あー、ありますね。こっちは1泊2日ですけど。……それがどうかしたんですか?」


 どうかしたんだよ。

 テスト以外では久しぶりに使った予知の力で。

 私は知ってしまったんだ。


「あーいう旅行イベントって、なんかみんな浮足立つでしょ」


 モブ子が頷く。

 この子も(なぜか)モテるらしいし、大方察しはついているみたい。




「合宿中に、翔くんに告白してくるヤツがいるらしい」




「はぁ……先輩ピンチじゃないですか」


「そう、ピンチなんだよ」


 私は壁をバンと叩いた。

 実際のところ、そこまで深刻には思ってないんだけどね。彼がそんな他の子になびくとは思えない……から。いやちょっと自信ないな。


「そこでね、モブ子。君には林間合宿中にお願いしたいことがあるの」


「うわ。なんか久しぶりですね」


 確かに、原点回帰した気がするね。

 涼子は話を聞かずに、スマホで某テーマパークの情報を収集している。この子と一緒に回ったら、アトラクション巡りよりもスイーツ食べ歩きになりそうな気がするな……。


「みんなの動きを監視して、翔くんに近付こうとする女子がいたら全力で妨害してほしい」


「めちゃくちゃじゃないですか」


 モブ子が呆れている。確かにめちゃくちゃなお願いなんだけどさ。

 人間性とか倫理観とか全く考えてない提案だよ。


「だってさ、翔くんが告白されるってのは絶対に逃れられない事実なんだよ。どうせならその子には、最悪の状態で告白してもらわないと」


「最悪な第一印象だったお前が言う?」


 話を聞いていないと思ったけど、涼子がスマホを見ながらツッコミを入れてくる。目の前でトラックに轢かれる女子高生もなかなか居ないからそりゃそうだけど。


「とにかくよろしくね。来週はずっと私たちいないんだから」


 ……はいはい。と気怠そうにモブ子が返事をする。


 モブ子に任せておけば安心。

 私たちは修学旅行を存分に楽しむことにしよう。涼子と遠出するのも、これが最後だから。涼子に目配せした。彼女は京都と大阪のスイーツ情報で頭がいっぱいだったみたいだけど。

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