第3章 生徒会長を殺そう!
私の名前は会長姫!
♂
長期休み明けの学校の気怠さは異常だ。
始業式も終わり、今はロングホームルーム。
夏休みの余韻ともっと有意義に過ごせばよかったという後悔のもと、苦痛な時間を過ごす。
「やってきたんですけど忘れました」
夏休みの課題提出。
渚は小学生のような言い訳をして提出を拒んだ。流石に高校1年生になってまでソレは通用しないよ。
案の定、担任の先生にウソをつくなと怒鳴られる。
「ったくよお。部活やら遊びやらで勉強する時間なんて無いっての。翔はえらいなあ、ちゃんとやったんだろ」
席に戻るやいなや、渚は俺に話しかけてきた。
「いや、昨日めっちゃ徹夜した」
8月31日、それは日本全国の学生の総学習時間がなぜか跳ね上がる日。
俺も例外ではなく、「夏休みの友」という名前のバカみたいに分厚い問題プリント集を答えを丸写ししながら仕上げてきた。どう考えても夏休みの敵だろ。
おかげで今日は非常に眠い。
「その眠気、早く吹き飛ばせよな。2学期はイベントがたくさんあるんだから」
「イベント?」と聞き返す。
「まず球技大会だろ。その後体育祭。あと2年生が修学旅行に行ってる間に俺たちは林間合宿に行くらしいぜ。おまけに強歩大会もある。これは陸部は参加できねえんだけどさ」
「目白押しだな」
綾芽先輩、2年生だから修学旅行あるんだよな。4泊5日、大阪・京都・奈良だっけ?
「いいか翔。学校行事ってのは先輩たちとの関わりを持てる絶好のチャンス。つまりお前もまた綾芽さんと仲良くなれる可能性が高いんだよっ!」と、渚は俺の肩を叩いた。
「仲良く、かあ……」
5人で行った海以降、綾芽先輩とは疎遠になっていた。
陸上部として合宿に行ったり大会に参加したりで俺が忙しかったのもある。ただ、単純に学校内でも数えるくらいしか会わなかった。ばったり会っても挨拶だけだったしね。
唯一誘いがあったのは夏祭りだけど、あいにく部活の都合で行くことは叶わなかった。抜け出してでも行っておけばよかったなあ!
「まずは木金に控える球技大会だろ。そこを狙うしかねえな」
「え。今週末って球技大会なの!?」
全然学校のスケジュールとか確認してなかった。
行事予定くらい知っておけ、と渚に睨まれる。
「今週、球技大会。再来週は体育祭。その次の週は中間考査で、その1か月後くらいに林間合宿。12月頭に期末考査。最後に、冬休み直前に強歩大会がある」
「いや2学期に予定詰め込みすぎじゃない? 3年生めちゃくちゃキツイでしょ」
進路活動のこととか全く考えてないのかなこの学校は。
「なんでも、今の生徒会が行事予定とか行事そのものを改革してるらしい」
「はあ。ここの生徒会ってアニメみたいに権力が集中してるの?」
渚は頷いた。
「生徒会に目を付けられたら最後。この学校には居られなくなるんだってさ」
本当に大丈夫かこの学校。
「中でも、生徒会長が相当なお姉様なんだ。グレートなんだよ、本当に……」
グレート? 一体何がグレートなんだ──?
♀
「今日も部活、部活っと……」
そう呟きながら私と涼子は部室の鍵を開けた。
今日は帰って寝たい、と涼子が眠い目を擦りながらぼやくが無視する。計画的に課題を終わらせないから最後に慌てるんだよ。
ドアを押して中に入る。
今日は何をしようかな。とはいっても、いつも1時間くらいお茶して帰るだけなんだけど。
「ごきげんよう」
部屋の中に変な人が居た。
扉を開けて目を合わせた瞬間にお上品に挨拶された。
夢だろうか。私は慌ててドアを閉めて廊下に逃げる。
「不審者かな?」と涼子に尋ねる。涼子も多分そうだと言ってるし、多分不審者なんだろう。
第一おかしい。部室の鍵は私が持っているはずなのに、どうやって侵入したんだ。
意を決してもう1度ドアを開ける。
「ごきげんよう」また同じ挨拶された。コンピューター?
「誰だ? お前……」
涼子が前に出て訊く。頼もしい。
「誰ですって? あらあら、あなたみたいな校則も碌に守らないヤンキー女が
縦ロールが似合う高飛車なその人は、おーほっほっほっと高笑いをする。
傲慢なお嬢様のようなその態度で思い出した。そうだ、この人は──。
「
「は、はあ? お前みたいなヤツ見たことないんだけど」
涼子の言葉のせいか、会長さんの顔に苛立ちが見える。
「やはり頭が糖分に支配されている女は駄目ですわね。いいこと?
パパ、もう少し頑張ろうよ。
「せ、生徒会長……? 嘘つくなよ。そんな変な名前のヤツが」
「あ! 名前のこと馬鹿にしましたわね!! 頭に来ますわ。この高貴な名の素晴らしさが分からないなんて、やはり味覚障害の女は違いますわね」
「んだとコラ!!」
挑発に乗ってしまった涼子が会長さんに殴りかかろうとする。私は慌てて止めた。
「涼子、やめてあげて。……
「あら、綾芽さんはそちらの下民とは違って物分かりがいいのですわね」
我慢して、と涼子に目配せを送る。涼子は舌打ちをした。
「生徒会はあなたたちの『超能力研究会』の廃部を決定しましたわ」
「な!?」
涼子が声を上げて驚く。
私も冷静ではなかったが、会長に悟られないように訊く。
「それは……なぜでしょうか?」
はいそうですかと承るわけにはいかないのだ。
「そんなの決まってますわ。こんな生産性も何もない部活、我が学校には不要。あと、この部室は今後、新設予定の第2生徒会室として有意義に活用させてもらう予定ですわ」
「お前、いい加減にし──」
涼子がまた殴り掛かりそうだったので腕を抑えて止める。
「おーほっほっほ! 第2生徒会室はアナタのようなゴミ生徒を調教して私の優秀な下僕にする更生施設ですわ! せいぜい楽しみにしておくといいですわ! 撤収期限は中間テスト後まで! それまでに清掃しておくように!! おーっほっほっ──」
会長は高笑いしながら部室を立ち去ろうとしていた。だが。
「待ってください。──会長さん、あなたまさか忘れてるわけじゃないでしょうね」
私の言葉で、会長の足は止まった。
会長が私を睨む。私は続けた。
「あなたは私たち『超能力研究会』の──3人目の部員でしょ?」
会長はバツの悪そうな顔をして、私から目を逸らした。
「ふ、ふんっ! 初めの3日以外は私は幽霊部員。そんなのもう実質的に退部したも同然ですわ」
「え、待てよ綾芽。コイツが部員? アタシ知らないんだけど」
君はどうして記憶喪失しているんだ。
涼子が類を見ない甘いもの好きなことを知っていて、饒舌に煽るこの姿が証拠だよ。
「百歩譲って、私が部員だったことは認めますわ。でも、この部活に入部してしまったことは、私の栄えある人生の唯一の汚点ですわ!!」
めちゃくちゃ言うじゃんこの人。私はため息をついた。
会長と目を合わせる。
「そこまで言うんだったら分かりました。この1か月間で私たちの活動が有意義なものであると認めさせますよ。そうしたら廃部は撤回してくださいね」
私は睨んだ。
この人の私利私欲(たぶん)のために部活を、私たちの居場所を奪わせるわけには行かないのだ。
「誰を相手にして宣戦布告しているのか分かっているのかしら? この学校の最高権力、会長姫を侮辱したことを後悔させてあげますわ。おーっほっほっほっほ!!」
今度こそ会長は去っていった。
会長がいなくなったことを確認した涼子は私の胸倉を掴んで詰め寄る。
「ど、どーするんだよっ!? 言っちゃ悪いけど、この部活に生産性も有意義もクソもないのは確かだ。どうやって認めさせるんだよ!?」
「涼子もなかなか言うなあ……。認めさせる作戦を、この私が考えてないと思って?」
私は涼子の腕を払って、ついでに制服についた埃も払った。
「あの人、勝負事が大好きだからね。単純に負かせばいいの」
そう。真っ向から勝負して、私達が勝てばいい。
なんか貴族っぽいし、負けは素直に認めるだろう。
「手始めに、まずは今週末に控える球技大会。完膚なきまでに叩きのめす」
私はそう言い放った。涼子は困り顔でこっちを見つめている。心配なのか? そうかそうか。
私たちと生徒会の約1か月半に及ぶ戦いが始まった。
「いや、球技大会ってクラス対抗だろ……?」
とにかく始まったのだ。
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