第8話 雑談を終えて

二人ともエールを飲み終え、備品の干し肉をすこしかじったあと。


重い腰を上げて、宿へ向かおうとする。


「さて、宿に行くか。」


「おう、宿の位置はわかるか?」


…ああ、確認しそこねた。


「わからん。」


「それゃ滑稽だ!」


声を上げて門番は笑う。


「酒場には行ったことあるよな?」


たしかにあの酒を飲んだのでこいつがかなりツボっていたことを思い出す。


「ああ、そこでクソ酒を飲んだな。」


我ながら、これは笑いの連鎖を狙いに行ったと思う。


「それはもう掘り返さないでくれ!」


また門番は声を上げて笑ってしまう。


計画通り…とは行かないが、宿の位置はどうなんだろうか。


「で、宿屋の位置なんだが、酒場の中にある。」


「酒場の中?」


「ああ、酒場と同じ建築物の中にある。宿屋のロビー部分が酒場になっていると考えたほうがわかりやすいかな?」


「ああ、どうりで無駄に施設が広かったわけだ。」


「ちなみに二階では普通に食事ができる。二階食堂の食事を酒場で注文して食べることもできるぞ。で、3階と右翼と左翼の全階層が宿になる。村の建築物にしては広すぎるな。」


「そうだな、上を見ないせいで気が付かなかったよ。ここから見えるから、相当な大きさなんだろうな。だいたい猪20頭くらい並ぶ大きさかな。」


「だいたい東西を横、南北を縦としたとき、だいたい横40メートル、縦30メートル、上下15メートルぐらいだとよ。」


「そんなにか、軽く事務所のサイズを超えているな。」


「そうなんだよ、狩りに来る人を引き入れるために、わざわざあれだけの宿を建てたんだ。どこからあんな費用を出してきたのかは知らないが、とにかくあれを作った人間に権力があることはわかるな。」


「そうか…取りあえず、宿に行ってくるよ。」


「おう、じゃあな!」




門から離れて8分ほど歩いたところ。


…何分歩いたかを細かく数える余裕が出来たのかと考えながら、酒場についた。


そのまま入って、こっちを向いた人間全員に手を振る。


そしてここの店主に話しかける。


「マスター、この前のチップだ。」


そう言って銅貨を置く。


「いくらなんでも初対面にあれをするなよ?値段もつかないんだから、誰も飲みたがらない。土食って1週間生き延びた俺でもしんどい酒だったぞ。」


洒落にならんという声で言い伝えながら、椅子に座る。


「その割には、その状況を楽しめたからいいじゃないか。それに、私はそういうことをしてもよいかを見切れる目があるんだ、気にしなくてもいいよ。」


ううむ…反論できない。


たしかに俺は楽しんでいたし、周りの声からしてマスターはちゃんと人を見ていたようだった。


そのうえで反論はできないな…


「仕方ない…ああ、そうだ、今日の宿を借りたいんだが。あ、『コメとシャケの異国風』を頼む。」


さり気なく、今日の晩御飯を注文をしておく。


昼はイグアナの肉だけで腹が減ってしまっている。


3時頃にあの変な酒を飲んだが、あれでは腹がふくれるというより、サラダを食いまくったような感じだった。


「宿を借りるのかい、この紙に描いてある部屋の中で、バツが付いているところは埋まってる、それ以外は借りれるよ。」


「わかった、じゃあ、1-3号室で頼む。」


「わかったよ、ここは左翼の1階のひと部屋だね、騒音が目立つ分、安く借りられる。」


「そうか…騒音が目立つのか、なら、3階の3-12号室だ。」


「階段のすぐ近くで、多い荷物は持ち運ぶのに苦労するが、騒音もあまり無い部屋だ。でも、アンタなら大した問題はないんじゃないか?」


「たしかにな、じゃあ3-12号室で頼む。」


「はいよ、鍵は渡しておくよ。1日金貨1枚増えていくから気をつけて。」


「ありがとう、代金は後払いか?」


「先払いでもいいよ、金貨1枚。」


「そんなに安くていいのか?」


「客が来たら別に村の経済は回るし、酒場と食堂がメインだからね。」


「ほう…その言いようだと、マスターがここの経営者のようだが。」


「そうだよ?」


思わず口の中のものを吐き出しそうになる。


「本当なのか!?」


「そうだよ?」


まさか、さっき話していた権力がある人間が呑気に話していた酒場のマスターだったとは。


「そうだったのか…マスターは、どんな職についてたんだ?」


それを聞くと同時に、マスターは表情を暗くした。


「私の口からはそれは言わないよ…」


どうにも、言いたくない過去があるようだ。


「失礼した、金貨1枚、先に払っておくよ。」


そう言って金貨1枚と銀貨3枚を机の上に置いた。


「チップありがとう!」


指定された部屋に行く。


螺旋階段を登り、さっき踏んでいた床から数えて3枚目の床に乗り、左へと曲がる。右へ視線をやるとそこが3-12号室だ。


部屋に入り、椅子に座る。

すると、無線が入った。


「やぁ犬治くん、元気にしてるかい?」


「ああ、しっかり宿までいけたぞ。」


「そうか、ならよかった。」

エルは安堵した息をつく。

「そうだ犬治くん。1つ連絡がある。」


「なんだいきなり。」


「オークションの代金は受け取りに行かなくていい。私経由で受け取る。」


「ありがとう、助かるよ。」


「言われるほどじゃあないよ。じゃあおやすみ。」


「おやすみ、エル。」


無線は途絶えた。


ふう、やっと休める。

持っていた荷物を下ろして、ベッドに飛び込む。

そのまま眠気に襲われて、なされるがままに眠りについた。

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