第9話 眠りを妨げ伝えるは破滅

その日の夜。


俺は夢…といっちゃ明らかになりすぎた夢を見ていた。


自分の手を見ようとする。


なんの問題もなく見れた。


つまり、これは明晰夢か、夢以外の何かだ。


だいたい、こういう夢は何者かに苦痛を強いられる夢だが、動けるということはそうではないのだろう。


さて、何をしよう。


左手に端末もない、銃もないし、ペンやノートなどの小物までも、すべてが存在しない。


さて…暇だ。


お経でも読もうかなと思ったその時。


「やぁ、待ったかい?」


後ろから、転生したての頃イヤホンで聞いた、エルの声が聞こえる。


「エルか?」


「そうだよ、今日のはじめに話しかけた、エルだよ。」


彼女の衣装は、至極普通な庶民的な服だった、というより、私にとって見慣れた衣装だった。


生前の猟友会にていっしょによく狩りをしていた人生の弟子たる一人の女性がいたのだが、その女性とよく似ている。


なつかしいな…


「懐かしいだろ?犬治くん?」


「そうだな、猟友会の仲間を思い出したよ。」


「それはよかった、懐かしさを覚えてもらって」


俺は少し感情に浸る…しかし、女神エルは話を止めない。


「さて、本題に入ろうか。」


「何について話してくれるんだ?」


「なに、私からの頼み事だよ。」


エルはちょっとためらう…が、しかし、心に決めたという顔をして、話を切り出す。


「私がリストアップした生物を全て狩ってほしい。」


「どうしてなんだ?」


考えるよりも先に、質問が出た。


正直、疑問だった。

リストアップした生物を狩るということについて、大してメリットが感じられないからだ。


しかし、女神エルはごもっともらしい答えを返してくれた。


「私が、君が狩る様を見たいから。そして、この世界の保安のためという建前まで用意してある。」


「後者について、詳しく聞かせてもらえるか?」


「ああ。」


エルは少し深刻そうな顔をする。


俺は推測して、大変なことになるだろうなと内心思い始めた。


正直、つらいことはしたくない。


「そんな顔をしないでくれ犬治くん!」


「ああ、すまない!」


俺は顔が引きつっていたのだろうか。


「話をちゃんとさせてくれ、そんな深刻じゃないから。」


落ち着かせようと、エルは声を出す…しかし、それは真実だとは思えなかった、とにかく話を聴こう。


「犬治くん、君が狩るであろう生物たちの中には、大規模災害を起こす可能性がある生物が存在するんだ。」


大規模災害と聴いて、深刻じゃないからという発言が嘘だったと確信し始める。


「大規模災害?一体どんな?」


不安を孕んだ声になってしまった、しかし、そのまま話を続けるしかない。


「魔力が暴走…あるいは、大量発生する。つまり、生態系が狂い、自然が暴走し、私達神はそれを制御できなくなる。」


「となると…つまり、この世界の人類が滅亡する…?」


「ご名答。事実であってほしくなかったけどね。」


…俺に、そんな使命があるのか?


何も知らず死んだと思えば、狩りをさせられ、見ず知らずの人の輪に入り、宿を探して…そして伝えられたのがこの使命なんて…


「幸い、10年時間がある。1年あたり、365日、細かい日付の変わり方は無い。余裕を持って準備と、狩りをしてくれ。」


「…やるしかないのか…?」


「大丈夫、私が全力でサポートする。」


「ちなみに、失敗したときのバックアップは?」


「そんなものが用意できたら、異世界の人間なんて呼ばないよ。」


「たしかにそうだな。」


「じゃ、お疲れだろうから、今日は休んでおくれ。私は君の端末にデータを送ったり、君の心理的なケアをする必要があるからね。」


「どうするつもりなんだ?」


「どうもなにも、他の神に頼んで、君が今聞いたことを簡潔にするだけさ、10年以内に端末のリストの生物を1匹ずつ狩る必要があるとだけ覚えていさせる。」


「なにか、他の記憶まで弄ったりしないだろうな?」


「僕達には、そこまでする力はないよ。」


…どういうことだろうか…

そう思っていたら、自然と視界が闇に飲まれていく…

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