7.部室棟の美女と野獣
第36話
──二年一組、
何かと手がかかる彼氏がいます──
「暑いぃ……」
部室棟の一階にあるゲーム部の部室で、あたしは開け放たれた窓の外を机にうなだれながら横に見ていた。
少し風が入ってくるけれど、どうにもこうにも暑くてたまらない。
グラウンドでは運動部が大きな声なんか出して、汗をかいて、楽しそうだ。
すると部室の扉が開いて、声が飛んできた。
「トーモエちゃんっ」
あたしの名前。
「はーあーいー」
扉に背を向けたまま、あたしは携帯用ゲームをかちかちかちかち、と操作する。
「はい、ストレートティー」
とん、と頭の側面にパックのストレートティーが置かれた。
「レベル上がった?」
「今上がったー」
「じゃあ俺も上ーげよ」
そう言って隣に座るのは
同じクラスで同じゲーム部で副部長だ。
あたしと焔君の二人ぼっちな部なので、あたしが部長。
そして、あたしの彼氏な人だ。
「また先生から呼び出し?」
遅れてきた彼に質問。
「……んー?」
何をとぼけますか。
同じクラスなんだから知ってますよ。
「金髪の件? それともピアス?」
「んー……」
ゲームに集中のフリかしら。
「他のクラスの男子と喧嘩した件?」
すると焔君は、ふいっ、と顔を逸らした。
ビンゴ。
ミルクティーのストローを齧るところなんか、まさにそれだ。
誤魔化そうとしているのにわかりやすい。
「……俺のせいじゃねぇもん」
出た。
子供みたいな言い訳。
「あっちが絡んできたからノったっていうか何ていうか……」
もごもご、と口を濁す焔君をあたしは頬杖をついて見つめる。
緩く結んだ三つ編みが少しほどけてきた。
暑いからよく首や肩からはらってしまうせいだと思う。
「怪我はない?」
「うん。逃げてたらあっちが勝手に転んだだけだし」
「かけっこ、速いもんね」
子供扱いの言い方をしたせいか、焔君は、むぅ、と膨れっ面であたしを見てきた。
「他に言いたい事は?」
ストレートティーを飲みながら聞く。
甘やかせてなるものか。
「…………ごめんなさいでしたぁあ!」
よろしい、とあたしは焔君の頭を撫でた。
少しプリンになりかけの綺麗な金髪は、確か去年の今頃に染めてからずっとこの色だ。
……なんで染め始めたんだっけ?
※
「──うぁっと、ごめーん。平気?」
職員室に入ろうとした時、突然開いた扉にびっくりして、それに赤いタオルを肩に掛けた女子生徒にもびっくりしたあたしは、部活予定表のプリントをぐしゃっ、と握り潰してしまった。
確か三組の……何とかさんだ。
「森岡! 追試の追試は明日!」
「ぎゃあ! 先生でっかい声で言わないでよ!!」
そうそう、森岡さんだ。
でっかい声はどっちだか。
追試の追試が恥ずかしかったのか、森岡さんは走って逃げていった。
「廊下走らなーい──と、鳳か。どうした?」
狼先生というあだ名の先生があたしに気づいた。
「失礼します。ゲーム部の活動記録と今後の予定表を持ってきました。確認お願いします」
狼先生はあたしと焔君が所属しているゲーム部のような、三人以下の部活の顧問を全部引き受けている。
他の先生も掛け持ちだったりしているけれど、狼先生の顧問率は群を抜いている。
「──最近どうだ?」
「どう、と言いますと?」
「黒崎」
あー……。
「記録通り、部活はちゃんと参加してます」
「じゃなくて、付き合ってんだろ?」
「あー、はい」
「いいねぇ、若いねぇ」
そういえば狼先生は独身だったっけ、と思い出す。
いきなりこんな質問、茶化されているのだろうか。
「お前らは面白いな」
面白いとは?
「黒崎はお前には気を許してるからな。しっかり調教してくれ」
まぁ幼馴染だし、付き合っているわけだし、気くらい緩むでしょう。
それより調教って言い方はどうなんだろう。
別にあたしは何をしているってわけでもない。
とりあえずここは──。
「はーい」
──と、返事しておこう。
「気が抜ける返事だなぁ、おい」
「あ、すみません。けれどあたし、見た目と違ってこういう奴なので今後ともよろしくお願いしまーす」
俺にそういう感じでかかってくるのはお前くらいだ、と狼先生は笑いながら、しっしっ、と手を振る。
一礼してその場を離れたあたしは職員室の扉を開けると──。
「──わっ、あっ」
「おっと。あ、手ぇ塞がってて開けれなかったのね。どうぞー」
カチューシャをした可愛らしい一年生が職員室の前でまごまごしていた。
「あっ、ありがとうございますっ。マサト君っ、早くっ」
後ろから同じように両手が塞がった男の子もいた。
なんか懐かしいな、と思った。
あたしも一年の時に焔君とこんな時があったな、と。
扉を閉めて、ため息をついたあたしは廊下を歩く。
さて、焔君を探しに行くかー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます