第34話

 ──何故、こんな事に。


「雨、上がってよかったね」


「……そうですね」


「緊張してる?」


「……別に」


「ははっ、正直になっていいのに」


 うるさいなー。


 アタシと城ヶ峰先生は今、ちょっといいところのレストランに来ていた。

性格には、連れてこられた、が正しい。

ドレスコードとかあるみたいで、もう一人の姉、琉璃ルリねえちゃんが働くセレクトショップにも寄った。


「まさか琉璃姉ちゃんと先生が同級生だったなんて……」


「俺は知ってたけどな。ついでに家族の了承も得た。で、どう?」


「どうって……」


 アタシは少し俯きがちに座っている。

ワンピースだけれどこういう、やや正装、という感じなのは初めてで、変に緊張、委縮するというのがあった。

店内にかかるジャジーなBGM、控えめの食器の音、小さな会話とそういう雰囲気のせいだと思う。


「似合ってるよ」


「……王子発言」


「本音だよ」


 どう、返して、いいもの、やら。


 琉璃姉ちゃんが働くお店で、アタシはシンプルなワンピースを着せられた。

結んでいた髪も解かれて、ヘアアイロンで緩く巻かれて、それにピンヒールのパンプスを履かされている。


「……色々、窮屈です」


「ははっ、俺も窮屈」


 先生もきっちりネクタイなんかしていて、髪型もいつもと違うセットをしている。


「じゃあなんでこんな……えーと、課外授業を?」


 ナイフとフォークを置いた先生はテーブルに腕を組むようにして置いた。


「気分転換」


「……ある意味違う気分は味わっていますけれど」


「俺も同じ。こんなとこ俺には向いてないと思ってた。大人過ぎてさ」


 分不相応ぶんふそうおう、というやつだろうか。

それは今、アタシが一番感じている。

他のお客さんは先生よりも年上の人ばかりで、落ち着いて見えるし、同じように正装? の人達ばかりだ。


「──まずはきちんと服を着る」


 え、なに突然。


「きちんと履いた靴で立つ」


 このピンヒール、ふらつくんですけれど。


「そうしてやっと、この場に入れる」


 ……ああ、このお店の事か。


「灰田の事はね、気になってたんだ。先生方の間でも話してたりね……皆口を揃えて、大人びた生徒だって言ってた。でもそんな事全然なかったな」


「……子供っぽいですか?」


「うん。髪染めてたり、冷めたようにしてるけれどな」


 別にそれはアタシが好きでやってて、そういうつもりじゃなくてそう見えるだけだ。


「どんな生徒も同じだけれどさ……灰田の事は見ちゃうんだよ」


「それはさっき言ってた、、ってやつですか?」


 ふっ、と先生は笑いながら水が入ったグラスに口をつけた。


「これって何だろうな?」


「アタシに聞かれても」


「ははっ、そうだよな」


 ん?


 いいから食べなさい、と先生に言われて、アタシは食事に集中した。

普段食べないような料理ばかりで、ナイフとフォークめんどくさいなって思った。

それに緊張もしていて味がよくわからない──なんて事はなくて、全部綺麗に食べたのだった。

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