第8話
……おや?
どうやら私はそのまま眠ってしていたらしい。
いつの間にか頬の下にはハンドタオルが敷かれていて、図書室の周りを見ると人が減っている。
ちょっと出ていた
「すっかり眠ってたみたいだね」
そうみたいです。
「蝶野さんもさっきまでいたんだけれど、生物部の方に行ったよ」
そうなの……残念。
「ははっ、芹ヶ野さんは蝶野さんがお気に入りだね」
だって可愛いんですもん。
こうやってハンドタオルを敷いてくれたり、優しくもある。
しかしどうやらこのハンドタオルは司書の先生が貸してくださったようだと聞いた。
これはきちんと洗って返そう。
「うん、顔色もさっきより良くなった」
……最初から普通ですけれど。
とは言えないので私は頷いてみせた。
「不機嫌そう」
しまった、眉間に皺でも作ってしまっていただろうか。
東宮先輩は軽く笑って続ける。
「芹ヶ野さんも蝶野さんと同じだね。喋らなくても顔に出やすい」
「……すいません」
「お、わかりやすく声に出したね」
むぅ。
さすが部長、部員の扱いが上手いというか何というか。
けれど私は全く喋らないというわけじゃない、無口ってわけじゃない。
ただ、皆わかってくれるから──甘えてるだけ。
変な癖、かも。
「じゃあ今日の部活は以上です。お疲れ様。気を付けて帰ってね」
私は東宮先輩と他の部員、そして司書の先生に軽く会釈して図書室を後にした。
※
実習棟の二階の端にある図書室から教室棟の二階までは結構な距離がある。
もう帰るだけだし、のらりくらり、と蛇行しながら私は廊下を歩いていた。
まだ陽は落ちていなくて、かっ、とした太陽が煩い。
これは私じゃなくても誰かの具合が悪くなりそうだ。
つまり私も具合が悪くなりそう。
今日借りたばかりの少々分厚い本を両手で団扇代わりに扇ぎながら、照らされまくっている中庭の芝生を見る。
もう少し陽が落ちるまでどこかで時間潰そうかなぁ……。
中庭を抜ける通路に設置された自動販売機を横切った時、大きく二歩、戻った。
好きなトマトジュースが売り切れていない、と思ったけれど財布は教室にある。
ここからまた往復するのめんどいし──うん、そのままどっかで本でも読も……。
※
──と思ったけれど、やっぱり喉乾いたし往復した私は自動販売機でトマトジュースを買った。
がここん、と出てきた取り出し口の前にしゃがんだ格好のまま、早速ストローを抜いて、挿して、飲む。
寝ていたせいかより喉が渇いていたようだ。
はぁ、美味し。
しかし暑い。
どこで時間を潰そうか、と辺りを見回すけれどどこも同じく暑いか。
涼しいところは──プール?
ふと、私はそう思った。
体育はずっと見学で泳いだ事もないけれど、なんか涼しいイメージとして出てきた。
それに水泳部は廃部になったと聞いているし誰もいないだろう。
教室棟の昇降口から校門の間にあるロータリーの噴水もあるけれど、あそこで本を読むのはちょっと気が引ける。
上履きのまま、で、いっか。
私はレースがついた白い日傘を開いてまた、のらりくらり、と蛇行しながら歩き出した。
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