第4話

なんとなく不気味だな、と凪は思った。

髪もゆるふわの肩下の長さ、長いスカート、華奢な体型でたぶん綺麗というか可愛い方に入るとは思う。しかし、この行動が理解できない。

「えーと、行元さん、でしたっけ」

歩いて数分のファミレスへの道のりが、凪にはやけに遠く感じた。

これが男だったら速攻で断って部屋に入って鍵かけている。女性だから油断しているように思えて、凪は少し自分自身が嫌になった。

「はい、行元渚といいます。舞乃さんにはお世話になっていました」

「たしか、叔母のシェアハウスの入居人さんですよね。弁護士さんから名前聞きました」

道は街路灯がぼちぼち点いていた。それが凪にはせめてもの救いだ。

痴漢と叫ばれてしまっても凪には逃げ道がない。だから精いっぱい離れて歩く。

「はい。舞乃さんのお部屋が一階にあるので、よくいらしてくださって。たくさんお世話になったので」

「そうですか……ぼくはここ数年の叔母のことは知らないので」

「舞乃さんもそんなことを言っていました」

この行元渚という人は、叔母の舞乃を慕っているらしい。

その後、しばらく無言になってしまっているうちにファミレスに着く。

「そんなに話すこともないんですけど、シェアハウスのほうにおいでにならないので」

「まぁ、ぼくもそれなりに忙しいんで……」

会話がぎこちない。仕方ないだろう、ほぼ初対面の怪しげな女性とどう親しく話せと。

席に向かい合せに座ると、改めて渚が凪を真直ぐに見た。

「行元さんは、他の入居者、さんたちの、代表かなにかですか?」

「いえ、そうではないですね。他のみんなは、新しい大家、つまり渡来さんをのんびり待ってます」

「はぁ……」

「実は、私、渡来さんが舞乃さんが話すような人じゃないかもしれないなって思って、見極めたくてきたんです」

「はい?」

渚は、極めて冷静なまなざしを凪に向けている。

「舞乃さん、生前随分、渡来さん――甥っ子さんのこと、気にされてましたよ。いい子だから私に何ができるだろうって思うって、私聞いたことがあって。でも、なんか渡来さんは舞乃さんのことそんなに思ってなさそうだから、だったらシェアハウスにも思い入れないだろうなって。そんな人が大家なのはちょっと私やだなって思って、一度渡来さんがどんな人か話して知りたいなって思ったんです。合わないようなら私出て行くので安心してください」

「え……?」

いきなり凪の予想外の話に行き着いた。

叔母がおれのこと、心配していた? ここ数年一回も連絡を取ってないおれを?

「私、シェアハウスに一番はじめに入った入居者なんで、昼間ときどき様子見にきてくれてた舞乃さんとも仲良かったんです。少なくとも私は仲良くさせてもらってたと思ってます。先日会ったとき、……失礼なんですけど、あんまり舞乃さんの亡くなったことに堪えてないように見えて、……その……」

「ええと、おれには大家になってほしくないなって思ったんですか?」

「まぁちょっと、思いましたね。というか私が出て行って新しい入居者入れてもらってもいいんですけど」



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