第3話
話をよく聞いたところ、叔母の舞乃はシェアハウス――かつて叔母と祖父母が住んでいた二世帯住宅だった住居――の近くに一人暮らしをしていたそうだ。あくまでも大家としてのポジションだったらしいが、シェアハウス内には叔母の荷物も遺されているそうだ。一人住まいの家とシェアハウスのほうとの遺品整理のためもあって、凪は近々にはシェアハウスに行くことにした――否、したかった。現実には、凪は大学4年で就職活動もあれば卒論もある。バイトも当然ぎっちり入っていたし、すぐに辞められるものでもなかった。
(家賃収入があるって言われても、すぐに手にできるわけじゃないしなぁ)
そんなこんなで、凪が大家としての挨拶を兼ねてシェアハウスに行ける日程は二週間後の日曜日しかなかった。凪にとってはこれからを決めかねていて、すぐに行きたいとも思えなかったのもある。すぐに手放さなくてもいいが、大家として家賃収入で暮らしていくことに自信がなかった。人の生活の面倒をみることなど、一人っ子だった凪にはちょっと想像がつかない。多忙で稀薄ながらも大学生活の付き合いもあるし、バイト先の付き合いもある。
どうしたらいいのか正直分からないのが凪の本音で、だからちょっとの間考えを棚上げしたかった。そして、葬儀が終わって一週間目に渚が再び現れるまでは、その棚上げもうまく行っていたのだが。
その日、凪はバイトのほうが早めの二十時上がりで帰途についていた。明日は大学で数少ない講義が一時限目に入っているからだ。
「腹減った~……賄い食ってくればよかったな」
夜道を歩きながら自宅アパートの付近までくると、自分のアパートの前に人影がある。不審者の影に凪はちょっとだけ眉を顰めたが、男性ではなく女性のようだったのであまり気にしないで通り過ぎようとした。
「あっ、渡来さん、ですよね」
まさに通り過ぎようとしたときに呼び止められる。どこかで聞いたような声。あれ、と凪が女性を振り向くと、一週間前病院で挨拶された自分と同世代の女性だった――たしか、行元渚。
「あ、いつかの」
「すみません、こんな夜分に来てしまって。渡来さんですよね? 30分くらいでいいので、お話できたらと思って」
凪は正直少し呆れた。早く帰ってきたとはいえ、もう二十一時近い。そこにほぼ初対面の男の家の前で待ち伏せするか?
「あの、いいですけど、さすがに家には上げられないので……その」
「スマホで調べて、近くにファミレスあるの知ってます。そちらでいいですか」
「はぁ」
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