第2話
葬儀は、誰に連絡するわけでもなく三日後執り行った。凪だけが参列した。喪主として、甥として、ささやかながら叔母の冥福を祈った。葬儀と並行して、遺産相続について弁護士からも連絡があった。叔母にそんなに多くの遺産があっただろうか? と凪は訝しんだが、祖父母と同居していた家が叔母名義になっていたのだ、ということと、家屋や敷地に関する相続金に相当する分は叔母の貯金から支払われる遺言になっている、と聞いた。
「遺言として、渡来さんへは家屋と敷地自体の相続をという趣旨が書かれています。その家屋は現在シェアハウスとして人が入居していますので、今後渡来さんには固定資産税の支払いが掛かってくる代わり、毎月賃料収入を得ることになります。現金収入は毎月20万円ほどになるかと思います」
弁護士の言葉に、凪は呆気に取られてしまった。
突然の遺産相続。突然の一軒家持ち。天涯孤独なのに固定収入が転がり込む? そんな都合のいい話があるだろうか、いやいやシェアハウス? 入居者あり? その維持は誰が? おれか? ……おれか!?
「冗談……ですよね? シェアハウスの大家になるってことですか? 遺産が? 現金でもなく?」
「いえ、貯金にあたる現金を相続金として支払い、シェアハウス自体を渡来さんに遺すことを明記されていらっしゃいました。きっと、継続的な収入が渡来さんにあったほうがいいと考えられていたのではないでしょうか。失礼ながら、甥の渡来さん以外とは親族付き合いもなく、渡来さんご自身もひとりだろうから……とお聞きしていましたので」
凪はその言葉に二の句が継げなくなってしまった。ここ数年まったく交流もなかった叔母なりに、凪のことを心配していたのだと分かったので、シェアハウスごと売却するとも言えなかった。もちろんその選択肢はあったと思うが、奨学生とはいえ大学4年でまだ内定を貰っていなかった。このまま、シェアハウスの大家に収まってしまってもいいかもしれないな、と凪が楽なほうに流れてしまったのは仕方ないのかもしれない。
此処に至って、病院で会った見知らぬ若い女性のことを唐突に思い出した。そういえばあの後連絡先も交換しなかったが、一体何の用事だったのだろう。
「シェアハウスには現在4名が住んでいます。渡来さんと同世代ですよ。もしかしたら、渡来さんにご友人を遺したかったのかもしれません。一度行かれてはいかがですか」
弁護士はそつなく話を進めてくる。
「ああ、入居者さん方のお名前だけは私も存じています。確か……行元渚さん、田崎汀さん、山田木槿さん、浅野寿雪さんの四名です」
女性3人で男性1人? それとも男性女性二人ずつなのだろうか?
そして、ここであの行元渚、さん、だ。
(シェアハウスのことについて訊きたかったのかもしれないな。そりゃ大家が亡くなったとなれば、先行不安だもんな)
と思いながらも、なんとなく不審な気持ちを拭いきれない凪がいた。
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