第7話  三原色

「すべて つながった――

 見えたぞ! 一連の事件が 意味する 唯一無二の答えが――」


「赤坂さん、私語は謹んでください」

「・・・・・・はい」


 英語の赤点テストを返され、赤坂 あおいは、放課後に補習をうけていた

葵の他に、オレと数人が強制的に参加させられてもいる

簡単に補習内容を説明すると、期末テストに出した問題を 順番に生徒に当てていき

先生が ヒント を出しながら(最悪、フィフティー フィフティーにまで答えを絞って

いただき)正解する事で やる気スイッチを入れようとしてくれているのだ



「それじゃあ、次の問題を―――」



 それぞれの教科担当が「呪われた教室」について 詳しくは、知らないそうだ

相談した者、された者には それぞれに「死」という厄災が降りかかる。

 さらに、このおぞましい現実については、早くて数ヶ月、

遅くとも数年で忘れてしまう、という現象まで引き起こされているという



 この英語の先生も2年前は、この『教室』の担任だったと聞いた記憶がある

2コ上のから聞いた...ような気がする

 今は、米国に留学中なのと コンプレックスから本人にたずねる気にはなれない

つまり 能力が高すぎて、ドン引きレベルなのだが、顔はそうでもない


 だけど、オレからすれば充分に、兄がいる



 とにかく、この英語の先生は 頼りにしても良いと思えた

そんなわけで、補習が終わったタイミングを見計らって、について尋ねた


「先生、って 英語でなんて言うんですか?」


「それは、先生が アメコミ好き なのを知っての質問なのかな?」

「…いえ。それは知りませんでした」

「そうですか、残念です」


そういって、深淵よりも深い溜息をついたかと思えば、黒板につらつらと書き始めた



 Super will  Super volition

 


と、書いてくれたのだが・・・まったく 読めない


「す、すぅぴ・・・先生、読めません」

「う~ん・・。これくらいは、流石に読めて欲しかったかな」


 すみません。数学は覚える事が 少ないから 簡単なんだが、

どうにも、記憶力や読解力には自信が無い


まず、左の方は「スーパー ウィル」

   右の方は「スーパー ボリション」


 そうこう説明してくれている間に、男子2人は帰宅の準備をしていたが

葵と数名は、この話に興味を抱いたらしく話に聞き入っていた


「確か、ドクター・スト〇ンジでは こっちの言葉を 使っていたと思うんだけど...」


 そう言って、腕を組みながら 頭を捻る。ちょっとした

なんだか、本物の魔法使いのような貫禄が 沸き上がって見える


「では。まず、窓の方に向いて立ってくれないか」


 オレは、言われるままに 席を立ちあがった

それだけなのに、周りからは期待の眼差しを浴びてしまう



「では、次に 足を肩幅まで開いて、深呼吸して・・・



 ・・・よし。いいぞ。様になってきている」


 何をさせたいのか、ちっとも分からない

様になっている、と言われても 当惑 するばかりなのだが?



「じゃあ、右手を黒板に向けて突き出して からの・・・」


 そう言って、黒板に書いた文字の左側を指したので、それを唱えた


「 すぅ ぱぁー  ウィル❕ 」


 と 呪文を解き放ったような口調で言ってしまう...

そう。それも、できるだけ カッコよく。完全にノせられた――


「おぉ、カッコいいぃ!」と 葵が歓喜する。釣られて、他の女子も盛り上がる


 ...ゃばい。これは、モテ期の到来だと錯覚してしまうじゃあ、ないかぁあああ!!


 などと、その雰囲気に浸っていたのも束の間に

水を差すように 爽やかな笑顔で 割って入ってきた奴がいた


「中二病、おつ」 (´▽`)ノ


 ちッ。こいつは、このクラスの爽やか担当とでもいうべきか

 特徴と言えば、女子に頼まれると何でも引き受けるを演じている所だな

悔しい事に、大概の事は そつなくこなしてしまう。つまり、

悠真と同じくらい女子にうける、【モテ男】と言われる、忌むべき存在

もちろん、モテない派を代表しての意見なのだが・・・



「・・・うるせぇ。今は、授業中だ」

 モテ期に割って入られ、気分を害したので 速やかな 撤退を促した


「補習、終わったんじゃないの?」

さりげなく、切り返してくる。くぅ、なんて爽やかなんだ


「この時間は、特別授業ですよ。もう少し、待ってください」

と先生が、割って入ってくれた。危うく、裏の顔が出てくるところだったぜ


はい。と頷き、立ち去る前に 葵に 話しかける

「あ、赤坂。あとで、ちょっと...」


「えっ...。あ、うん...」


と答える葵。見ろよ、あの嫌そうな顔をよ

とオレは思っていたのだが、

ただ、周りの女子は キャー と黄色い声を 上げていた


 呆然としていたオレに、先生は 無言で肩を叩いてくれた

いやいや。オレは、葵の事をそんな目で 見てはいないから。見ていないんだって...


「まぁ。好きな方を選びたまえ。分からない事があれば、いつでも来なさい」

と言い残して、先生は教壇から立ち去っていった





 女子ふたりは直ぐに葵の所に詰め寄りに「どうするの?」と問いかけた

それに対して「ごめん」と言うと 急いで 教室から出て行く

 補習メンバーの何人かの男子は、おぉ、と言ったりで

近くの女子グループと混ざり 談笑に華を咲かせた


 オレは、慌てて出て行った 葵 を目で追いかけて、

ある程度の行き先を予測し、ゆっくりと追いかけて行った


 校舎の裏だな。自転車置き場...いや、体育倉庫の方か...


 葵は、小学生の頃から “ラノベ” にはまり、

そのせいで、周りの女子から浮いた存在だった


 オレや悠真と仲良くなった経緯もその辺りにある

それは、おいおい話していこう。今は...いない。しまった、自転車置き場の方か


 そう気づくと、慌てて、オレは自転車置き場の方へ走って行った


 いた! 奥の方か。よし、近くの物陰に隠れて 成り行きを見させてもらおう

そう思い、ふたりから見えない死角の物陰に隠れようと近づいた


 ・・・が、そこの物陰に、すでに悠真が スタンバっていた


「悠真、なんで こんな所にいるんだよ?」

「何だか面白そうな事が起こりそうな予感がした」

 (なるほど...)


「悠真もわるよのぅ」

「いえいえ。お代官様ほどでは」と言って、ふたりで卑しく笑い合う


 ただ、葵たちとは それなりの距離がある為、動きは見えても何を言っているのか

さっぱり 分からなかった...

 

「どうしたものか」と オレが呟くと

「じゃぁ、声を 当ててやろうか」と応えてくれた

「え、悠真には聞こえてんの?」

「任せてくれ」

 

 そういうと、おもむろに 声を換えて しゃべり始めた――


「私さ、スニーカー文庫より角川文庫の方が好きなのよね

 だって、担当者が凄く イケメン 揃いなのよ」

「おい、マジかよ。本当にそんな事を言ってんのかよ」

「あぁ。間違いない。僕の聴力は折り紙付きだ」

「そうか。疑って悪かったな...それから、なんて言ってんだ?」


 悠真は、軽く咳払いして、再び アテレコ に挑む


「私さ。よく〇〇先生宛で、先生の担当者にファンレターを送っているの」

「え、マジ!? いや、それは流石に先生に失礼じゃないのか?」(;´Д`)

「しっ、聞き取れなくなる」

「あ、ごめん」


などとやっていると、急に葵が、モテ男に 何度も頭を下げて 走り出して来た

それを見て、慌てて奥へと隠れる悠真

間に合わないと感じたオレは、とりあえず うつぶせに 寝そべって回避を試みる





 ――走り去る音が聞こえた。おそらく、バレなかっただろう


「もう、行ったぞ」と悠真が 教えてくれた

「あ、危なかったな」

「お前は、バレていたけどな」と腹を抱えながら、悠真は微笑み かけてきた



 晴れ渡る空を見上げ、頭の中が真っ白になっていった・・・










 なぁ、葵。オレは、どんな顔で会えば良いだよ?










  ――明日は、もう 一学期の終業式だ――








   次に、死ぬのは オレかも しれない...

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