第6話:三人でしてみようよ

「三人……で?」


「うん。ちぃと私と君の三人で」


「……えっと……三人で何を?」


「セックス」


「はぁ!?」


「私は別に……構わないですけど……」


「はぁぁ!?」


 愛海さんの衝撃発言に驚かされ、千歳さんの返事に二度驚かされる。唖然としていると、愛海さんが千歳さんを呼んで手招きをした。呼ばれた千歳さんが立ち上がると、愛海さんはとんとんと自分の膝を叩いた。千歳さんが膝の上にまたがる。愛海さんは私の方をちらっと見ると、煽るようにふっと笑い、千歳さんの髪を撫で、唇を奪う。


「へ、ちょ、ちょっ……」


 好きな人が自分以外の女にキスしている場面を目の前で見せられる。元カノが他人とキスをしていた時はショックだった。見たくなくて、家を飛び出した。なのに、何故か、名前を呼び合いながら何度もキスを繰り返す二人から目が離せない。嫉妬心や苛立ちは一切湧かない。湧いてくるのは情欲のみ。心臓の音がうるさくて環境音が耳に入らなくなる。なのに、舌が絡み合う音や二人の吐息だけははっきりと、鮮明に聞こえてきて、脳を刺激する。


「……はぁ……ねぇ、美陸ちゃんってどっちなの?」


 愛海さんが荒い息を吐く千歳さんを胸に抱いて、吐息混じりの色っぽい声で私に問う。


「ど、どっち……って……?」


「ネコかタチか。どっち?」


 応えられずにいると愛海さんは「その反応はネコちゃんっぽいね」と煽るように笑う。


「そ、そんなこと無いです!」


「へぇ。じゃあ、ちぃのこと一緒に気持ちよくしてあげようよ」


 パチン、パチン、パチン。と、金具が外れるような、普通なら聞き逃しそうな小さな音が三つ。やけに大きく耳に響いた。小さな悲鳴を上げて飛び跳ねた千歳さんの服の中に、愛海さんが手を入れると、服の中から白いレースのブラジャーが出てきて、床に落ちる。


「ま、愛海さん……」


「ふふ。美陸ちゃん、それ、拾ってくれない?」


 愛海さんに言われて、拾い上げて千歳さんに返す。千歳さんは恥ずかしそうにそれを握りしめ、愛海さんの胸に顔を隠した。その恥じらう表情がやけに色っぽくて、ドッドッドッドッ……と、心臓の音が重く響く。


「美陸ちゃん」


 千歳さんを抱き上げて「ついておいで。ベッド行こう」と私を誘う愛海さん。立ち上がることすら出来ずに呆然としてしまうと、愛海さんはふっと笑って腕に抱いている千歳さんに「二人で楽しんじゃおうか」と、私に聞こえるように囁き、私に背を向けた。気付けば、遠ざかろうとする背中を引き止めていた。愛海さんは振り返り「美陸ちゃんもしたいんじゃん」と悪戯っぽく笑う。

 断って帰ろう。そう思ったが、千歳さんが私の服の袖をくいくいと引き「嫌?」と甘えるように問いかけてきた。潤んだ瞳が私を誘う。心臓に矢が刺さる。私は愛海さんに恋をしたはずなのに。


「やっぱり美陸ちゃんも好きなんじゃん。ちぃのこと」


「わ、私が好きなのは愛海さんです」


「ふふ。じゃあどうする? 君が断るなら私達二人で楽しんできちゃうけど、良い?」


「ず、ずるいですよ……拒否権ないじゃないですかこれ……」


「あははっ」


 流され、愛海さんの後について行ってしまう。部屋の前まで来ると彼女は立ち止まり、振り返り「良いってことだよね?」と最終確認をする。頷くと、彼女はふっと笑って千歳さんに部屋のドアを開けさせた。

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