第5話:衝撃発言
「それは好きになっちゃいますねぇ」
話を聞いていた盾石さんが苦笑いする。
「愛海さんの優しさって、下心を感じないんですよね。だから私も、安心するんです」
愛海さんは言っていた。恋人の盾石さんは一途に愛されるのが嫌なんだと。その理由を盾石さんに聞くと、彼女は表情を曇らせてしまった。
「あ……ごめんなさい……話したくないなら話さなくても大丈夫です」
「……ううん。これから長い付き合いになるかもしれないんだもの。知ってほしい。聞いてくれますか?」
「……はい」
「ありがとう」
紅茶で喉を潤してから、盾石さんは語り始める。
「私、ずっと、人の好意が怖かったんです。仲のいい幼馴染の女の子がいたんだけど、私が他の人と仲良くしていると嫉妬して、相手に嫌がらせをしていたの。私はそれを知らなくて、何故か自然に私の周りから人が離れていって……孤立していく私に彼女は『私だけは君の味方だからね』って優しくしてくれて……それで私、彼女を好きになりかけたんだけど、全て彼女の仕業だって気づいてしまって」
彼女は震える声でその先を語ってくれた。幸いにもその彼女は罪を認めて謝罪したそうだが、失った友情は戻って来なかったそうだ。
「だからずっと、恋が怖くて。私自身、誰かにそこまで執着したことないんです。好きは理解出来るけど、好きな人を独占したいという気持ちは理解出来ない。誰かと付き合いたいって思ったことがない。恋と呼べる感情には独占欲や執着が必須だというのなら、私には恋心というものは存在しないんだと思う。アロマンティックってやつなんじゃないかって」
アロマンティックとは、他者に対して恋愛感情を抱かないセクシャリティのことだと横にいる愛海さんが解説をしてくれた。
「愛海さんのことは好きなんですよね?」
「ええ。好きよ。けど、独占欲は無いの。私は、彼女の側にいられるなら、友人のままでも構わなかったけど、彼女は私を恋人にしたいと望んでいて、私はそれに応えたいと思ったから応えただけ。……好きではあるけど、彼女に対する好きは、友達に対する好きと変わらないの。複数の人間に平等に愛を振りまく愛海さんは、罪な人だとか、クズだとか言われがちだけど、私には、誰よりも優しい人に思えるんだ。安心するの。私だけに執着しないから。愛海さんは、自分だけを見てくれと望まないから。周りからは色々言われるけど、私は愛海さんに愛されて幸せよ」
そう言って盾石さんは笑う。その表情が愛海さんの優しい笑顔に重なる。私の好きな愛海さんの表情に。
私も同じだ。愛海さんの優しさに惚れた。
「美陸ちゃん、どう? ちぃに嫉妬せずに仲良く出来そう?」
愛海さんが問う。私はずっと、愛海さんの恋人になれる人が羨ましかった。この恋は諦めなきゃって思っていた。けど、諦めなくて良いと彼女とその恋人は言う。三人で付き合えばいいじゃないと。
千歳さんと話してみて、私は彼女に、愛海さんと同じくらい素敵な人だという印象を抱いた。彼女が愛海さんに惚れた理由も共感しかない。
だけど……。
「あの……その……盾石さんは……」
「千歳って呼んで」
「あ、は、はい。千歳さんはその……愛海さんと……その……え、えっちなことって、するんですか?」
問うと千歳さんは、恥じらう様子もなく「するよ」とサラッと答えた。分かってはいたが複雑な気持ちだ。すると愛海さんがとんでもないことを言いだした。
「一回、三人でしてみる? そしたらちぃのこと受け入れられるかられないか、はっきりわかるんじゃない?」
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