第4話:出会い

 彼女と知り合ったのは今からちょうど一年前。その日、私は当時付き合っていた彼女の浮気現場を目の当たりにした。しかもその日は、私達の記念日だった。付き合って二年目の記念日。サプライズで祝うために、彼女の家を訪れると、寝室で知らない女といちゃついている彼女を見つけてしまった。私は、衝動のままに、記念日を祝うために買ってきたケーキを二人に投げつけて、家を飛び出してとあるバーでやけ酒をしていた。

 そんな私に「お姉さん、ちょっと飲み過ぎじゃないですか? 危ないですよ」と水を差し出してくれたのが、愛海さんだった。

 彼女との会話はよく覚えていない。気がついた時には私は家に帰って来ていて、彼女は居なくなっていた。リビングには買った覚えの無い紙パックのオレンジジュースが置いてあり『二日酔いにはオレンジジュースが良いらしいですよ。世の中良い人ばかりじゃないので、酔いすぎには気をつけてくださいね』と書いたメモが添えてあった。


 その日私は、もう一度同じバーに行った。もう一度彼女に会ってお礼を言いたかったから。その日は会えなかったが、翌日、彼女と再会した。彼女は私を覚えていて、私を見つけると隣に座った。私は覚えていないが、お互いに自己紹介をしていたらしく、私の名前も年齢も知っていた。


「あの後、大丈夫でした?」


「はい。……お礼言いたくて。ここに来たら会えるかなと思って」


「お礼だなんてそんな」


「いえ。お礼させてください」


「えー……じゃあ、一杯だけ付き合ってもらおうかな。今度は私の名前、忘れないで覚えて帰ってね。剣城愛海。剣のお城で剣城。愛の海で愛海。歳は26歳」


「鎧塚美陸。21歳の大学生です」


「知ってます。聞いたから。これも何かの縁だし、連絡先交換しません?」


 流れるがままに連絡先を交換し、知り合った日に話したことをなぞるように全く同じ話をしてくれた。そこで私は彼女がレズビアンであることを知った。一瞬だけ期待したが、恋人が居ることを告げられて、彼女とは友人として付き合っていこうと決めた。

 しかし私はその日から、バーに通うようになった。彼女に会うためだけに。彼女に惹かれていることは自覚していて、諦めなければいけないと思っていた。それでも心は彼女を求めてしまった。フラれたばかりの私は、彼女の優しさに縋らずにはいられなかった。

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