最終話:恋敵?いいえ、恋仲間です

「で、美陸ちゃん。どう? ちぃちゃんと、恋人同士仲良く出来そう?」


 私の髪を弄りながら問う愛海さんの後ろから、「どうですか?」と、千歳さんがひょっこりと顔を出す。


「……正直に言うと、私今、混乱してます」


 私は愛海さんが好きだった。愛海さんの恋人に嫉妬していた。

 恋愛は一対一でするもの。恋人が出来たら他の人を好きになってはいけない。一人の人間を一途に愛することが真実の愛だと、ずっと、そう思って生きてきた。なのに今私は、愛海さんだけではなく千歳さんにもドキドキしている。あれだけ抱いていた千歳さんに対する嫉妬心は一切無く、彼女のことを愛おしく思っている。恋敵にこんな感情を抱いていることに混乱している。

 それを素直に話すと、愛海さんはくすくすと笑いながら「見ててあげるから二人でしてみたら?」と言い出した。


「いや、なんでそうなるんですか!」


「私の好きな人達がいちゃいちゃしてるところ見たいから」


「欲に忠実すぎる……」


「だって、美陸は私のこと受け入れてくれるって分かったから」


 そう言って愛海さんはへらへらと笑う。『私は彼女が好きだよ。だけど、君も好き。君とも付き合いたいと思ってる』と打ち明けた時の不安そうな顔はどこへいったのやら。演技だったのではないかと疑ってしまうが、私の胸に埋められた彼女の頭から聞こえてきた「君を好きになって良かった」という泣きそうな声と鼻を啜る音が、疑いを晴らす。


「私ね、ずっとクズだって言われてたの。一人の人を一途に愛せないなんてクズだって」


「……私もそう思ってました」


 私の元カノにも、私以外に彼女が居た。私が浮気相手で、あっちが本命だった。ショックだった。だから、愛海さんが恋人がいるのに私と付き合いたいと言った時はふざけるなと思った。彼女を大切にしない最低な人だと思った。千歳さんから彼女のそんなところが好きだと聞かされた時、理解できないと思った。だけど、今は分かる。愛海さんは千歳さんのことを心から大切に思っていて、私のこともまた同じくらい大切に思ってくれているのだと。だから勇気を出して、恋人が居るけど付き合いたいと正直に話してくれたのだと。千歳さんは言っていた。愛海さんの好意には下心が無いと。思えば、私と初めて会った時もそうだった。愛海さんは酔っていた私を家に送り届けて、何もせずに帰った。二日酔いに効くからとわざわざオレンジジュースを置いていくほどの気遣い屋だ。クズだと言われている人なら、酒を言い訳にして手を出していてもおかしくない状況だったのに。


「……好きです。愛海さん」


「んー? ふふ。私も好き。ちぃちゃんと同じくらい、愛してるよ」


「……はい」


「で、どうする? 私の恋人になってくれる?」


「……はい。三人で付き合いましょう」


「うん。ありがとう。これからよろしくね」


「同じ人を好きな者同士、仲良くしましょうね」と、愛海さんの肩から顔を出した千歳さんが笑う。私はそれにはいと答えた。

 こうして私は、一方的に恋敵と意識していた人の恋人の、二人目の恋人になった。恋敵だった千歳さんは今ではすっかり恋仲間だ。

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