第三話
瑛と離ればなれになってからすぐ、ネットのコンテストや公募に作品を応募するようになった。少しでも早く書籍化して、彼女に読んでもらうために寝る間も惜しんで書き続けた。
ときどき瑛とは電話をしていたが、だんだんとお互いの生活が忙しくなり、次第に連絡を取らなくなってしまった。
僕は、とにかく自分の小説を書籍化することに夢中だった。「本」という形になれば、また瑛とも連絡を取れるようになるだろうと安易に考えていたのだ。
小説を書くことは楽しい。けれど、なかなか大賞を取るのは一筋縄ではいかなかった。最終選考まで残ることすら、かなり難しい。それでも、瑛が本を読む姿を想像すると不思議と頑張れた。彼女が泣いたり、笑ったり、ときめいたりとコロコロ変わる
やがて、その想いに応えるように高校二年生の時に、遂に書籍デビューすることが決まった。
「うそ……だろっ!?」
パソコンの画面をもう一度上から下へスクロールする。間違いない。
<大賞>
『学校がもしタイムスリップしてしまったら? ――僕の毎日漂流記――』 神大寺怜央
はっきりと自分の名前が書かれていた。すると、まるでタイミングを見計らったかのように、メールの受信音が鳴る。慌てて確認すると、「受賞おめでとうございます!」という文字が飛び込んできた。応募していた出版社の編集部からだ。
「神大寺怜央様
この度は、ライトノベルファンタジー賞にご応募いただき、誠にありがとうございます。厳選たる審査の結果、神大寺様の『学校がもしタイムスリップしてしまったら?――僕の毎日漂流記――』が大賞に選ばれました。受賞おめでとうございます。つきましては、編集担当の者から後ほど今後の流れなどについて、ご連絡させていただきます。
改めまして、この度はライトノベルファンタジー賞受賞、誠におめでとうございます。今後も更なるご活躍を願っております。 ××社 編集部」
ついに、この
やっと念願の作家デビュー。瑛に、本になった自分の作品を読んでもらえる日が来たのだ。
思わず、ガッツポーズする。
今まで生きてきた中で、一番嬉しいことかもしれない。すぐに瑛に報告しよう。
携帯を手に取り、押し慣れた番号を打ち込んで、携帯を耳に当てる。「早く繋がれ」と心の中で念を送るが、そんな思いは届かず、焦らすかのようにコール音が続いた。やがて、コール音が止み、僕は口を開く。
「もしもし、瑛ちゃん? 久し……」
だが、聞こえてきたのは無機質なアナウンスだった。
『おかけになった電話番号は現在、使われておりません。もう一度』
手から、携帯が滑り落ちる。愕然とした。しばらく連絡を取っていない間に、携帯を変えていたようだ。一瞬だけ頭が真っ白になったが、すぐにふつふつと怒りが湧いて来る。
何故、番号を変えたことを教えてくれなかったのか。こんなに死に物狂いで小説を書いて、やっと……やっとデビューできることになったのに。一番に報告しようと決めていたのに。
頭の中で、ぐるぐると色々な感情が駆け巡っていく。けれど同時に、僕はある日のことを思い出していた。
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