103.大天使が揃って覗きですか?
天使なんて碌な生き物じゃない。神が人間を創造した。そこに間違いはないが、意思のある存在を身勝手に間引いたり、思い付きで堕としたりする行為は許容できない。
バエル様が行動を起こした時に従ったのは、そう感じる己の心を誇ったからだ。何もせず見守るだけの天使を見下し、この判断による結果を後悔しないと決めた。それゆえ、外見が獣の姿になろうと、醜く牙が突き出そうと笑っていられる。
あの方が契約して連れ帰った幼子は、奇妙な気配がした。人に怯え、卑屈に
悪魔を見ても驚かず恐怖に震える様子がない。心眼ですべてを見抜くと知ってから、ようやく納得した。あの子は、醜い悪魔の外側より美しい心の有り様を見ていた。
「それで、何をしに来たのですか?」
長く伸ばした爪を大天使ミカエルの首筋に当てる。隣では、同様にガブリエルに剣を向けるアモンがいた。彼女もカリス様を可愛がっている。皇帝バエル様と契約者カリス様が心穏やかに過ごすため、守りの手は多いほど都合がよかった。
「ちょっ、いきなり攻撃的だな。僕らは
神や他の天使に目を付けられないよう、名を呼ばずに示された。なるほど、確かに害する気はなさそうだ。爪を退けると、アモンは不満そうにしながらも剣先を納めた。
「大天使が揃って、ですか?」
「ミカエルが、凄い子がいるっていうから……確かに眩しい子だね。天界には勿体無い」
遠回しに、天界に連れて行けばあの輝きは失われる、とガブリエルは呟いた。そこに滲んだ本心が声に深みを与える。
「ウリエル達には知らせておくよ。そうすれば、天界の動きは封じられるし」
天使の提案とは思えない。だが、この4人がバエルに好意的なのも事実だった。少し迷った末、アガレスは譲歩した。何より優先すべきは、あの二人の絆だ。引き裂かれることがないように、己の命を懸けても守りたい。
「ゲーティアへの連絡は私に入れてください」
「わかった、その方がいいね」
「あの子が揺らぎそうだし」
勘が良さそうな子だよね。ガブルエルがミカエルに同意したところで、彼らは思わぬ提案をしてきた。
「それとは別に、あの子と仲良くなる方法知らない? 好きな物や欲しい物でもいいよ」
「可愛いよね。あの子を膝に乗せてみたい」
……これは、堕天の兆候では?
首を傾げたものの、アガレスは少し考えて答えを口に出す。
「子どもですし、甘いお菓子は好きです。絵を描くことが好きなので、褒めるといいでしょうね」
「「わかった。準備してくる」」
ばさりと白い翼を広げて戻っていく天使達を見送り、アモンが呆れたとぼやく。
「攻めてきたんじゃなくて、カリス様に惚れ込んだってことよね?」
「平和でいいではないですか。もしあの態度が嘘なら……切り刻んでコキュートスに撒いてやりますよ」
にやりと笑ったアガレスの残虐さを秘めた顔に、アモンはぶるりと身を震わせ肩を抱く。いきなり寒気がしたわ。女将軍として部下を束ねる彼女でさえ、今のアガレスと対峙するのは御免だった。
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